技術の進歩は同時に、それを使う人々の価値観も変化させていく。顧客分析やパーソナライゼーション、クリエイティブの自動化、未来予測⋯デジタルシフトが加速し、あらゆる情報の取得・活用がはじまっているなかで、企業や生活者は、何を考えていくべきなのか。哲学・倫理学者の岡本裕一朗氏がその考察を語る。
重要なのは問題解決ではなく、問題をあらかじめ確認すること
新型コロナ感染症が発生してから、マーケティング活動が大きく変わり始めています。今まで、店舗での販売と言えば、対面を中心に行なわれてきましたが、感染リスクを避けるため、AIを駆使した自動化が進んでいるのです。それにともない、顧客などの膨大な情報が今まで以上に収集できるようになりました。
もちろん、こうした動きは以前からもありましたが、今回のコロナ・パンデミックによって、加速化したと言えるでしょう。しかし、急激な変化は、そのとき発生する問題を解決しないまま、先へと進んでいき、気がつくと取り返しのつかない事態になっていることも少なくありません。そこで、問題解決ではなく、何が問題なのかあらかじめ確認しておく必要があります。
たとえば、ある鉄道会社が利用者のICカードから得られる情報を、別会社に売却して問題になったことがあります。この問題は、個人情報をどう取り扱うか(プライバシー)が根本にありますが、それ以前に「情報」は誰のものかが明確ではないのです。個人が特定できるものをすべて消去したとしても、そもそも利用者からの情報を、会社側が勝手に(?)売買してもいいのか、スンナリ納得できないわけです。
利用者からすれば、自分が使った交通手段の記録ですから、それを本人の同意も取らずに使われることに、不快感をもつかもしれません。ましてや、利益を生み出す商売に利用されたとなると、認められないと言いたくなります。法的問題はさておき、こうした状況が明らかになるのは、鉄道会社にとって望ましくはないはずです。そのためかどうかは分かりませんが、情報の売却は一応「見合わせられた」のですが、問題そのものが解決されたわけではありません。
IoTの情報は誰のものか?自動運転車の事例で考える
こうした事例は、おそらく氷山の一角と考えることができ、現代社会ではむしろ、どこででも起こる問題だと言えます。しかも、今やIoTが急速に進化し、個人情報だけでなく、モノの情報さえもが外部から収集できるようになりましたので、問題はいっそう複雑になっています。
そこで今度は...