ビルコムでは、PESOを横断したPR戦略の企画立案から実行、効果測定までを支援する「統合型PR」を掲げている。消費者のライフスタイルに寄り添った新習慣の創造により、製品の新たな使用シーンを生み出している同社のメソッドを、代表取締役兼CEOの太田滋氏に聞いた。
コモディティ時代をPRで突破 まずは新市場創造の課題を探る
2003年の創業以来、「統合型PRソリューション」を掲げ、大手メーカー企業を中心に幅広いクライアントのPR戦略をサポートしているビルコム。
統合型PRソリューションとは、ペイドメディア、アーンドメディア、シェアードメディア(ソーシャルメディア)、オウンドメディアの4つで構成される「PESO」を統合し、それぞれのメディアに応じたメッセージを発信。消費者の態度変容を促していくソリューションであり、同社では統合型PRの企画立案・実行・効果測定という3つの段階で企業を支援している。
ビルコムの代表取締役兼CEOを務める太田滋氏は、時代の変遷に伴うニーズの変化について、PRによる「新市場の創造」を必要とする企業が増加していると話す。
「コモディティ化が進むいま、製品の機能価値では差別化が図れなくなったことにより、機能性に加えた情緒的な価値の提供や、ライフスタイル提案などにより、新しい市場をつくる必要があるのです」(太田氏)。
同社では、「市場シェアを上げたい」「認知を獲得したい」といった企業の相談に対し、ヒアリングや分析により課題を明確化。その結果、①競争軸の転換、②新しい習慣の定着、③社会的意義の設定の3つが「新市場の創造」における課題となるケースが多いという。
「テレビCMなどで獲得し得る認知はすでに取り尽くしてしまった、ある意味、広告の限界を感じられている企業やブランドもあります。そのようなクライアントに対して、課題を発見し、その課題を解決していくために伴走するという事例も増えています」と太田氏は話す。
言葉の力をPRに生かす「市場創造記号」の7要素
このようなクライアントの課題に対して、具体的に同社の統合型PRソリューションでは、まず「市場創造記号」を開発するところからスタート。「市場創造記号」とは、同社が生み出した概念であり、新しい市場を創造する際に鍵となる言葉を指す。
「旭化成ホームプロダクツさんの『ジップロック®』の事例では、『下味冷凍』という『市場創造記号』を開発しました。食品保存用のジッパーバッグ市場はすでに成熟しており、『ジップロック®』の認知度も高いです。ここに、新しい市場をつくるため、『ジップロック® フリーザーバッグ』に肉や魚と一緒に調味料を入れて下味を付け、そのまま冷凍保存することで、解凍後、加熱調理するだけで簡単にメインおかずが完成すると提案したのが『下味冷凍』です」。
これにより、時短調理の新たな習慣をつくり出し「下味冷凍」という言葉をPR戦略にも活用した。
この「市場創造記号」の開発メソッドとして、同社では7つの要素を含むことを心がけている【図表1】。
「『ジップロック®』の場合、共働き家庭の増加で時短調理が求められているという社会課題が①の『社会的背景』、そして『下味冷凍』自体が普及したとしても『ジップロック®』に落ちなければ、PRとしては意味がないため、『ジップロック®』の製品優位性である“密封性”と“素材の厚み”に結び付いているというのが④の『商品接続力』になります」と太田氏は説明する。
また、「市場創造記号」は一般的に言われるコンセプトとは異なり、メディアが取り上げたくなるような、ハッシュタグになり得るような言葉であることも重要。さらに、ひとつに決め打ちをするのではなく、施策を通して仮説検証しながらアジャイル的に開発していくことも、コンセプトとの差だという。
「市場創造記号」を開発したのち、実際に情報を波及させていくにあたり、同社が掲げている戦略が「シャンパンタワー型コミュニケーション戦略」だ【図表2】。これは、シャンパンタワーのように、段階的なコミュニケーションを設計することで、あるひとつのセグメントに注いだ情報がやがてあふれ出し、別のセグメントやメディアに流れ込み、さらにそこからもあふれ出して、また別のセグメントやメディアに流れ込んでいくという考え方。
「シャンパンタワー型コミュニケーション戦略」における重要なポイントは、一番上のグラス(セグメント・対象者)と水(ファクトや施策)を何にするかということだと太田氏。
「『熱量が高い人たちから、愛情を持った情報の波及』を促すことが大切です。最初は大量の認知を取るアプローチではなく、『ジップロック®』では“共働きの家庭”など、その『市場創造記号』で解決できる課題により、本当に困っている人、興味・関心が高い人に、イベントなどの密なコミュニケーションできちんと情報を届けました。それにより、熱量がSNSなどを通してWebメディアやマスメディアへと波及していくのです」と太田氏は、この点でもPESOを複合的に見る統合型PRの視点が重要だと話した。
PR効果をメディア横断で分析 競合分析も叶う「PR Analyzer®」
統合型PRソリューションに加え、同社の事業の軸となっているのが、独自のクラウド型PR効果測定ツール「PR Analyzer®」の提供だ。従来は主観的な経験に基づくプランニングが多かったPR領域において、データを用いた定性・定量による評価を可能とした。「PR Analyzer®」では、4マスメディアとTwitterやFacebookといったSNSのデータを網羅しているため、メディア露出による効果やSNSなどでの口コミまでを横断的に評価することができ、さらには競合企業についても比較・分析できる点が特徴であるという。
「PR Analyzer®」の活用により、横断するPESO施策全体に対して効果検証に基づく改善策を提案できる点も、同社の強みとなっている。
現在、ビルコムへの相談は、BtoC企業のブランドにとどまらず、ITやSaaS型のサービスを提供するBtoB企業も増加しているという。
「BtoB業界は自社サービスの優位性を示しにくく、競合との差別化を課題としている企業が多くあります。当社では、業界を絞ることなく、“新しい市場をつくりたい” “新たなシーンやライフスタイルを定着させたい”といった思いを持つ企業を、今後もサポートしていきたいと思います」と太田氏は語った。
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