- 重要なのは、「世の中への受け止められ方をチューニングする力」と「それをどうやって実現するかをチームに指し示す力」。
- 大切なのは視座であり、技術ではない(経験はちょっとだけ必要)。
- CDのCはCreative、Consulting、Context、CX。現代のCDはすべてをディレクションする必要がある。
クリエイティブ・ディレクションの極意
クリエイティブディレクターは"業界人"だけの仕事ではない
僕がクリエイティブディレクターになったばかりの頃。たまたま開催された小学校の同窓会で、もらったばかりのクリエイティブディレクター(以下、CD)の名刺を(ちょっと自慢気だったのかも知れません)手渡していた僕に、寿司屋になった友達が言いました。「クリエイティブディレクターって、なんていうか、いい役職なの?オマエのこと9割は信じているんだけど、なんか、1割うさんくさい。何コレ笑」。
確かに、クリエイティブディレクター(CD)なんて広告界とファッション界でしか使われていなさそうだし、共通するのは胡散臭さ(ファッション業界の人がいたらスミマセン)。その当時の僕はうまく説明できず「まあ、広告業界のアレだよ、カッコつけた名前のヤツだよ」と言ってお茶を濁してしまいました。しかし今はそうではないと自信を持って言えます。
クリエイティブ・ディレクションはすべての意思決定に必要なスキルです。特にチームワークで何かを進める時には欠かせないと言っていいでしょう。寿司屋の大将になった友人の高崎くんも時にCDであるべきだし、広告会社とプロジェクトを共にするクライアント担当者も大きな意味でクリエイティブ・ディレクションをするべきだと思います。
クリエイティブ・ディレクションは「チューニングをする仕事」
CDの仕事を一言でいうと「世の中からの受け取られ方をチューニングする仕事」だと僕は考えています。
寿司屋で言うなら、高級寿司なのか大衆寿司なのか。伝統寿司なのかフュージョン寿司なのか。若者向けなのかシニア向けなのか。どれも酢飯の上に新鮮な魚介が乗っているというお寿司テンプレートは変わりませんが、自分がどんな寿司屋として勝負するのかが変わってきます。その方向性を決めること。それこそがクリエイティブ・ディレクションです。だからこそ、宣伝担当者にとって重要なスキルなのです。
寿司屋は自分で握らなくてはいけませんが、マーケティング・コミュニケーションでは全てを自分でやらなくていい。むしろ全部やることは不可能です。様々な技能の様々な専門家とチームで働くことになり、その時にもクリエイティブ・ディレクションが必要になってきます。つまりクリエイティブ・ディレクションとは「バラバラの専門家たちに、向かうべき方向性を指し示す力」とも言えそうです。
制作はベクトルの合成と同じ みなが同じ方向を向く
高校の数学の授業でベクトルが出てきました。僕は数学が苦手で、ベクトルに関しては「なかったこと」にしたのですが、それでもベクトルの合成の話は感覚的に理解できました。
どんな大きな力でも角度が離れていると、足したときに大きな力になりません。それどころか、後ろ向きに作用するとマイナスの力になってしまいます。僕はクリエイティブ・ディレクションを考えるときにはこの図を想像しています。つまりクリエイティブ・ディレクションを強く働かせるためには、できるだけピンポイントで具体的な方向を指し示すことが重要なのです。全てのベクトルを同じ方向に向けて重ね合わせれば、力はどんどん強くなる。これが理想です。
ではどうしたら自分が指し示している方向が正しいと自信を持てるのでしょうか。
視座の問題であり技術の問題ではない
漫画や映画で合戦の様子が描かれるとき、本陣は必ず高い丘の上にあります。将軍や軍師の下には常に伝令が飛び交い、たくさんの情報が集まっていることがわかります。僕はできるだけ自分をこの状態に持っていきたいなと考えています。
人に方向を指示するには、人よりも高い視座を持つことが重要です。正しい情報をもとに、正しい課題を発見し、確からしい道筋を鳥瞰で見つけることを目指します。
誤解を恐れずにいえば、CDになるためには、美大を出ている必要も、コピーライター養成講座を受講する必要もないのです。チームに向かって、正しいゴールを指し示すことができたら、それがクリエイティブ・ディレクションです。実際の表現なんて専門家に任せてしまえばいいのです。広告会社のクリエイティブは、そんな情熱を持ったクライアントCDに出会えると、とてもやる気が出ます。
まとめると、クリエイティブ・ディレクションとは...