日本を代表する古典芸能である能楽。その最大流派である観世流二十六世宗家、観世清和氏が、混乱の時代だからこそ能演で伝えたいものとは。
GINZA SIXに観世能楽堂 能楽の最大流派、観世流
能楽は、室町時代に観阿弥と、その子である世阿弥によって大成された日本が世界に誇る伝統芸能のひとつだ。700年以上の歴史を有する世界最古の舞台芸術であり、能楽は国の重要無形文化財およびユネスコ無形文化遺産にも登録。洗練された幽玄な舞によって表現される能楽の芸術性は、国内外から高く評価されている。
能楽は能と狂言に大別され、能の主役を勤めるシテ方には、座と呼ばれるそれぞれにルーツを持つ「五流派」が存在する。観世流は、観阿弥・世阿弥の直系で最大流派。室町時代には室町幕府三代将軍足利義満の庇護を受け、また能楽が式楽(国家指定芸能)に定められた江戸時代には幕府から筆頭流派として重用されるなど、時の為政者によって保護され、発展してきたことも観世流能楽の大きな特徴だ。
そして現在。能楽界をけん引する観世流には、約600人の能楽師が在籍する。その観世流の家元が、二十六世観世宗家の観世清和氏だ。観阿弥・世阿弥の子孫に当たる観世氏は、第一線で活躍し続けるだけでなく、数々の海外公演を成功させ、能楽界の発展に貢献。2017年には、渋谷区松濤にあった「観世能楽堂」をGINZA SIXへ移転するなど、新たな試みにも果敢に挑戦してきた。
「閑静な住宅街の中で静かに能を楽しむ場だった観世能楽堂が、日本の中心地とも言える銀座に移転。全く違った環境に、活動拠点が置かれることになりました。交通の便もよく、人々が往来する街の中にあるので、気軽に出入りしてもらえる能楽堂を目指したい。銀座の地で、これまで以上に社会環境の変化に順応して運営をしていく必要を経営者として感じています。能楽堂は、浮世離れした"聖域"であってはなりません」。
観世家にとって銀座は、江戸時代に幕府から屋敷を拝領した地でもあり、移転は150年ぶりの帰還ということになる。しかし、昨今のコロナウイルス禍によって銀座の街を行きかう人々は激減し、以前の活気が失われてしまっている。観世能楽堂も自主公演の中止を余儀なくされた。
「東京2020に向けて、訪日外国人や日本の古典文化に触れたことのない初心者の方に能楽の深く素晴らしい世界を感じてもらうための催しを企画していた矢先、このような事態になってしまいました。来年に延期という決定になったので...