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IoTとマーケティング

IoTは、移り気な消費者と向き合う処方箋

丹羽雅彦(アクセンチュア)

「インダストリー4.0」「第4次産業革命」などを合言葉に、ものづくり分野での活用に注目が集まりがちなIoTですが、消費者の生活の中に浸透していくと、どのような変化が起こるのでしょうか。また、そこでは消費者と企業との関係性はどのように変わっていくのでしょうか。

コンシューマーに向かうIoT

「モノのインターネット」と訳されるIoT。デバイスの進化やネットワークの多様化、クラウドの普及を背景として活用が進み、2020年までには世界人口の3倍以上にあたる240億もの機器がネットに接続されると予想されている(1)。実際、街を歩いていても、我々はセンサーに囲まれて生活していることに気付く。そこで生まれたデータは我々の生活にいかに関わってくるのだろうか。

これまでIoTは、主に工場や物流など企業の生産活動における効率化の視点で語られてきた。アクセンチュアの調査では、日本の経営者の68%が産業向けIoTを「オペレーションの効率化に活用する」と回答している。しかしグローバルでは、経営者の57%が「新たな収益源の創出に活用する」と回答しており(図表1)、筆者が関わるビジネスの現場でも膨大なデータを生かした新たなビジネスがいくつも企画され始めている。

図表1 産業向けIoTへの期待

本稿では、こうしたIoTビジネスの進展が産業の現場だけでなく、どのように消費者の生活を変え、価値を生み出すかについて論じたい。

移り気な消費者

iPhoneの登場から10年。人々は常に接続された状態で生活を送っている。この10年で消費者の行動は大きく変化した(図表2)。第一に、製品への愛着心が薄れた。アクセンチュアの調査によれば、59%の消費者は「より良い条件の製品を適切な場所やタイミングで紹介されたら切り替えるのに躊躇しない」と回答している(2)

一方で自らが好むサービスは使い続ける。また気に入ったサービスと同じクオリティを他のサービスにも求める傾向がある。例えば、あるECサービスで無料・即日配送に慣れた消費者は、他のECにも同じレベルを求める。サービスへのハードルが常に高まっているのだ。

図表2 移り気な消費者

第二に、日常の行動がマルチタスク化している。食事しながらメニューの口コミを確認し、写真を撮影してSNSでシェアし、会話にあがった商品を指先で購入する。買い物とは、もはや単独の行動ではないのだ。通勤する、働く、食事する、という日常の行動に買い物が組み込まれている。

第三に、個人情報を取得されることをあまり気にしない。調査によれば70%の消費者が、情報の取り扱いが透明で適正であれば企業が個人情報を収集することに同意している(3)

ではIoTはこうした移り気な消費者にとって、いかに役に立つのだろうか。

製品からサービスビジネスへの進化

IoTの最大のメリットは、消費者の生活に寄り添えることだ。朝起きてから寝るまで、消費者と行動をともにできる。Amazonが音声アシスタント「AmazonEcho」を製品化した理由はここにある。Amazonは従来から購入・検索履歴をもとに消費者が気に入ると予測される商品をリコメンドしてきた。Echoの登場により、Amazonは消費者が買おうと思う時点より前の段階から消費者の生活に入り込み、購買を喚起できる。

企業が自らの製品にネットワーク接続機能を組み込む理由も同じだ。これまで消費者と販売時しか接点を持たなかった企業が、ネットに接続された製品を使って消費者一人ひとりの生活に寄り添うことで、それぞれの適切なタイミングで商品やサービスを提供できるようになる。前述のように消費者が移り気になる中、このように消費者一人ひとりのニーズをタイムリーかつ的確に把握することは、言うまでもなくこれからのビジネスにおいて重要となる。

いくつか先進的な取り組みを紹介したい。福岡銀行は昨年 …

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