(最終回)
オリンピックやグローバルマーケティングに関して、世界一の権威であるマイケル・ペイン氏が、2020年東京オリンピック・パラリンピックに対する考えを語る特別連載。最終回となる今回は、破綻寸前だったオリンピックムーブメントが世界で最も素晴らしいイベントに成長した過程から得られる教訓と、そうした教訓をどのようにビジネス界に応用できるかについて検証します。
破綻寸前だったオリンピック
1983年に私がオリンピックムーブメントをスタートさせた時、IOCは破綻寸前でした。当時、オリンピック招致運動に熱心な都市は、ほとんどありませんでした。スポンサーもなく、放送権による収益はわずかなもので、米国マーケット以外での存在感もまったくなかったのです。
しかし、その後の20年間で史上稀にみる事業再建を目の当たりにしました。IOC会長を務めるサマランチ氏による指揮の下、オリンピックは事業再建に成功したのです。それにより、オリンピックはより安定した基盤を築き、世界の名だたる都市が開催都市に名乗りを上げるようになります。企業は、オリンピックパートナーシップの下、ビジネスモデルやブランドを再定義し、貴重なオリンピック放送権をめぐって、放送局やメディア企業帝国をつくったり、倒産したりもしました。
オリンピックが再建されたのは偶然の出来事ではありません。この再建から、リーダーシップやマネージメントにおける8つの教訓を学ぶことができます。
1.リーダーシップとは物事を多面的に見ることである
オリンピックの再建は、卓越したリーダーシップによって成し遂げられたと言えます。時にIOC部外者に誤解を招くこともありましたが、サマランチ会長の長期的、かつ戦略的なリーダーシップこそが、オリンピック大会存続のカギでした。IOCは、一歩前に出て、課題を整理する必要がありました。裏方に徹するのではなく、明確なビジョンの下、契約条件についても指揮を執ったのです。
これは、あらゆる分野のビジネスの指導者にも言えることです。組織、会社というものは、日々の業務において焦点を合わせられる一つの明確なビジョンがあってはじめて成功するものです。そうでなければ、停滞するだけです。
オリンピックの再建において最も重要な課題の一つは、妥協することなく、また辛抱強く商業化を図ることでした。オリンピックムーブメントは、四半期などといった短期的結果で判断すべきものではなく、長期的な計画に基づいて進められなければなりません。同時に、オリンピック再建の成功を定義する指標を明確にすることも重要でした。オリンピックの成功は、アスリートにとってオリンピックに参加することが素晴らしい名誉となっているか、オリンピックの価値や哲学、ブランドに忠実であるか、そして、人々の注目度を明確に示す視聴率の高さを指標としました。あまりにも多くの企業が、自社の成功の定義を狭義に捉えていますが、それでは決して成功には至りません。
オリンピックムーブメントとは、多様性に富んだ個人、組織の集団です。国内にオリンピック委員会がある200カ国以上の国や35 の国際競技連盟といった独立組織が参加しています。そうした組織を団結させて大会を開催することが極めて重要でした。当時は、オリンピックムーブメント全体が危機に直面しており、それを打開するには、それぞれが協力し合うことしか道はなかったのです。
この「協力し合う」というシンプルな目標により、オリンピックは他のどんな人や組織よりも大きくなることができたのです。これは企業にも言えることで、従業員から仕入れ先までさまざまな立場のステークホルダーを、ビジョンと統一された目標で一つにまとめ上げなければなりません。
2.経済的に自立していることで、自由な行動ができる
政治的に独立し、経済的にも自立しない限り、オリンピックムーブメントに未来がないことは明白でした。この経済的独立という考えが、世界で最も成功しているグローバルなマーケティングプログラムへと導いたのです。
IOCのグローバルスポンサーシッププログラムであり、マーケティング戦略を象徴する“TOP”は、年数が経つごとに、事業を急速に発展させ、ブランドを強化させ、そして従業員のモチベーション向上のためのユニークなプラットフォームを企業に提供をするようになりました。
これらはすべて …