オリンピックやグローバルマーケティングに関して、世界一の権威であるマイケル・ペイン氏が、2020年東京オリンピック・パラリンピックに対する考えを語る特別連載。今回はオリンピックスポンサーシップ活動の成功例と失敗例を検証し、成功するためのポイントと重要な教訓についてお伝えします。

偉大な成功を収めたビザのスポンサーシップ
グローバル・オリンピック・マーケティングの活動を指揮していた20年間、私は、グローバルな多国籍企業から小規模のBtoB企業にいたるまで、何百という異なったオリンピックのマーケティングプログラムに関わってきました。後世に残るいくつかの有名なキャンペーンが生まれ、計り知れない成果を残しました。しかし中には、代理店による助言が間違っていたり、荒唐無稽な構想であったりして完全に不発に終わり、オリンピックへの投資を無駄にした企業もありました。
おそらく、最も定評があり研究されたスポンサー事例はビザでしょう。ビザは1985年、IOCのワールドワイドマーケティング プログラムTOPの契約に署名しました。ビザのオリンピックスポンサーシップは、同社やその加盟銀行に何十億ドルをももたらし、アメリカン・エキスプレス(アメックス)に代わって、世界で使える旅行に最適なクレジットカードという地位を確立しました。
IOCは、元々アメックスにスポンサーを打診しました。が、アメックスはその提案を受け入れませんでした。アメックスは、IOCの申し出を拒絶したことをすぐさま後悔し、数年後には、ビザからオリンピックスポンサーシップを取り戻すために白紙小切手まで用意するほどでした。メディアはこぞって「マーケティング史上における最悪の失敗」と報道しました。アメックスのCEOであったジェイムス・ロビンソン氏も、オリンピックを失ったことは最悪の事態の一つであったと認めることでしょう。ですからスポンサーシップの偉大なパワーを享受するために、正しくオリンピックのマーケティング戦略を構築すべきです。
1985年頃、高所得者向けの旅行や娯楽産業市場でアメックスの後塵を拝していたビザは、何としても上位に立ちたいと願っていました。ビザの新しいマーケティングマネージメント陣は、オリンピックのパートナーになることで、自社のブランドを全く新しいレベルに引き上げる可能性を理解していました。彼らはオリンピックスポンサーシップを補足的プロジェクトではなく、すべてのマーケティング活動の中心に据える権限と予算を持つ立場にいました。彼らはスポーツスポンサーシップに対する先入観を持っていなかったため、スポーツマーケティングのルールブックを書き直し、それまで長年、オリンピックのスポンサーを務めてきた企業に、スポンサーシップとはどうあるべきかといったことを教えることになりました。

ビザがこれまで展開したオリンピックCM。2本ともhttp://www.michaelrpayne.comで視聴可能。
スポンサードの真の成果とは
ビザは、シンプルながら非常に力強いスローガンで、キャンペーンを展開しました。オリンピックスポンサーの権利の一つである独占という原則は、チケット購入やオリンピック会場で使用できるカードがビザに限定されることを意味していました。そこでビザの広告代理店は、「and bring your Visa card,because the Olympics doesn’t take American Express(ビザを持ってきてください。オリンピックではアメックスは使えません)」という非常に印象的なフレーズで終わるCMシリーズを制作しました。国によっては、「the Olympics only takes Visa(.オリンピック会場で使える唯一のカード)」と少しトーンダウンしていますが。
同社のオリンピックキャンペーンは、それから数年内に、驚異的な成果をもたらしました。ビザを最高のクレジットカードと評価する消費者が40%から63%に急増し、マーケットシェアも40%から53%に成長しました。当時、クレジットカード業界の複合年間成長率は16%だったにもかかわらず、ビザのブランド認知度は、オリンピックスポンサーシップを開始した翌年に50%以上も上昇しました。オリンピックスポンサーシップが始まったとき、アジアにおけるビザの認知度は3位でした。しかし、3年後にはマーケットリーダーに浮上し、今もなおその地位を維持しています。
ビザのアジアマーケティングディレクターであるリック・ブッシュ氏は次のように語っています。「オリンピックは驚くべきツールとなりました。一瞬にして …