生活者が自ら企業や商品に関する情報を集め、評価し、共有するといったことが可能となった現在、これまでの企業主体のコミュニケーションは変化を求められている。生活者の悩みや興味・関心を捉え、いかにコミュニケーションを設計していくべきなのか。そのヒントは「言葉」にあった。
セルフデザイン・ホールディングス 代表取締役CEOの古澤暢央氏(左)
取締役CCO(チーフ・コンテンツ・オフィサー)の山田明裕氏(右)
Webへの流入に「コンテンツ」が大きな役割を果たす
いま企業には一方通行の情報発信ではなく、生活者の疑問に答え、悩みや課題を解決する「コンテンツ」を生成することが求められている。
検索エンジン集客(ホームページ改善・PPC広告・SEO施策)を軸に企業の売上向上を支援してきたセルフデザイン・ホールディングス 代表取締役CEOの古澤暢央氏は次のように語る。「例えば、家電量販店でテレビを購入する際、家の間取りやどういう番組を見るか、音にどれだけこだわるかといったことをヒアリングし、その人にとって最適な商品を提示するのが優秀な店員だ。企業には、ユーザーの課題やニーズを整理し、解決策の選択肢を提示することが求められていて、そうしたコミュニケーションの起点となるのが『コンテンツ』と言える」。
同社では、2005年からSEOサービスを手掛け、現在はユーザーの疑問・悩みに回答する良質なコンテンツを活用することでSEOの効果を高める「コンテンツSEO」を提唱している。古澤氏はコンテンツに注目する背景について、「日本のSEOサービスは人工的なバックリンク対策によって市場が伸長してきた。関連するキーワードで検索された際、SEO目的のために人工的に生成した『サテライトサイト』と呼ばれるWebページから、クライアントのサイトにリンクを張ることで上位表示させることがSEO。しかし、2011年からGoogleが取り締まりを厳しくしたことで、SEOを取り巻く市場は大きな転機を迎えた。ユーザーの悩みを解決し、興味関心を引くロングテールの記事、つまり『コンテンツ』によって流入を促すモデルにシフトしている」と語る。
「コンテンツSEO」では、コンテンツ作成にかけた手間と時間が資産化する。また、検索エンジンが評価する信頼性と権威性(オーソリティ)を積み重ねる活動となり、情報の正確性と網羅性が、小手先のテクニックでSEOを実施するライバルに対し、競合優位性を保つことができる。その一方でROIの計測が難しく、どう売上に結びついているのかが不明確といった課題もある。こうした課題に対し、「ある商品の購買者が、その商品を知ったきっかけや信頼できると思った要因を調査すると、『コンテンツ』が寄与している役割が大きいことが分かる」と同社 取締役CCOの山田明裕氏は語る。
同社では、複数のメディアを立ち上げ、その運用を通じてコンバージョンを最大化させるコンテンツの研究を重ねてきた。また、同社取締役の鈴木謙一氏が運営する「海外SEO情報ブログ」は、2007年1月の開設から現在まで、2500記事近くのSEO情報をサイト運営者に向けて発信し続け、自らがコンテンツSEOの実践を行いその成果を実感してきた。
検索される「言葉」を読み解き
ユーザーと企業の出会いを最大化
ドクターシーラボが運営する「美肌総合研究所」は、化粧品・美容に関する情報発信を行うオウンドメディアだ。人的リソースの問題から更新ペースが上がらないという課題がある一方で、自然検索流入を増やしたいというニーズがあった。山田氏は、効率化やアクセス数の向上というミッションに対し、検索されるキーワードに着目した。「制作するコンテンツは、そもそもどういったキーワードによって検索されるのか、ユーザーの分析を徹底して行い、抱える悩みの根源となるキーワードを抽出して優先順位付けすることが重要」と説く。
一例として、山田氏は、『角栓』に関して、検索されるキーワードを網羅的に集め、その意図を解析する作業を実施。『角栓』とは皮脂や角質が毛穴のなかで固まり、ニキビなどの原因となるものであるが、解析の結果、『角栓 原因』や『毛穴 角栓』、『角栓 洗顔』といった『角栓』と一緒に検索されるキーワードが浮かび上がってきた。この結果を反映し、記事タイトルを『角栓の不思議!毎日洗顔していても毛穴が詰まる3つの理由』とすることで、『角栓 原因』『毛穴 角栓』『角栓 洗顔』で検索されても、網羅できるようにした。こうした施策により、同サイトでは、コンテンツSEOの実施前1カ月と、実施から約1年半経過後の1カ月を比べると、ユニークアクセス数が2.4倍まで向上したという。
このような、検索される「言葉」を軸にしたコンテンツを投入することによる成功事例は多数生まれているが、山田氏は「ユーザーの課題やニーズに応える情報を提供するのがコンテンツSEOの本質だが、はじめから購買意欲のあるユーザー(顕在顧客)のみに対してアプローチを考えているケースは少なくない。今すぐの購買意欲があるわけではないユーザー(潜在顧客)に対しても継続的に情報を提供し、長期的視野で運用に取り組むことが重要」と語る。
「コンテンツSEO」を提唱する同社の最大の強みは、長年の実績により培った「言葉」に関するノウハウだ。古澤氏は、「生活者が抱える課題は、それを解決してくれる商品と直接的につながっていないケースが圧倒的に多い。例えば、『角栓』とは何か?なぜできるのか?どういう手段で取り除けるのか?といった情報収集から始まり、その過程で正しい知識を得ていき、自分に最適な解決方法を選択する。よっていきなり商品を提示するのではなく、そこには教育や啓蒙といったクッションも必要。その間の架け橋となるのが、検索される『言葉』。最初に検索される『言葉』が何かということからプランニングを行い、最適なコンテンツを用意することで初回の接点を持つことが大きなポイントになる」と語る。
コンテンツSEOをさらに加速させるべく、同社では「言葉」に注目し、「言葉」に関する研究を日々行っている。「角栓」のコンテンツであれば、どういう「言葉」が盛り込まれていると上位表示されやすいかといった研究を、検索の意図を読み解くアナログな解析にとどまらず、自社でシステムを開発し、テクノロジーも活用して行っている。同社は、「言葉」からユーザーの本音を読み解き、ユーザーにとって本当に役立つコンテンツを提供することで、クライアントとユーザーの関係性を強化させていくことを目指していく。
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