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企業マーケターの評価と人材育成

キャリア視点・パフォーマンス視点から、マーケターを評価する方法

伊藤裕一(日本ビジロップ 代表取締役)

マーケティング部門の管理経験を持つマネジメント・コンサルタント、それも特に、企業における人材育成という視点で日本ビジロップの伊藤裕一氏がマーケターの評価について語る。

キャリア視点からのスタッフの評価

まず、基本的にはマーケティング・スタッフだからといって、何か特殊な視点が必要であるというわけではなく、対象者が経理部員であれ、開発部員であれ、本人の組織におけるキャリア形成という視点で評価をし、そして育成していくのが原則であると考えられます。その基礎となる考え方として、日本でいまだに多くの信奉者を持つE.H.シャイン(又は、シェイン)が「キャリア・ダイナミクス」で表したクラシックな“組織の三次元モデル”に準拠して述べたいと思います。

このモデルは、3つの構成要素から成り立ち、円錐形によって描写されます。まず、円錐の水平面を明瞭に表す底辺は職能によってパイ状に分割されています。たとえば、営業、会計、財務、情報、研究開発、生産管理、マーケティングなどです。次に、縦方向に注目すると組織階層が見えてきます。頂点には、代表取締役社長が位置し、役職者の階層を経て、多数の一般の社員によって構成されることになります。そして、円錐形の頂点から底辺の中心に垂直線を下ろすと、組織の中心線が見えてきます。組織の頂点である社長から一直線におりてくる中心線ですから、階層や職能に関係なく、中心線に近い人々は組織経営に関わる情報へのアクセスが高く、経営への関与が高い存在と言えることになります。

この3つの要素を参考にマーケティング・スタッフについて考えると、まずは、職能としての「マーケティング」の範囲、構成要素と難度を確定する必要があります。自社で、マーケティングの仕事としている活動についてすべて棚卸し、各々の仕事の単位について、内容を記述し、難易度や必要な経験年数を確定することになるでしょう。こうした職務記述書を整備することができれば、マーケティング・スタッフについて、本人と会社(上司)との間で現状と将来の方向性についての客観的なレビューとキャリア・パスの設定を(職務という範囲で)行うことができるでしょう。もしも、評価が難しいと感じるのであれば、それは、マーケティング職の特殊性というよりも、仕事の棚卸しと評価が不十分であることが原因と言えます。

次の要素である階層という点ですが、これは、職能の特殊性の影響よりも各々の組織(企業)が求める階層別の要求条件ということになります。「マーケティングの課長職だから」という影響よりも、「ウチの会社では課長になったら、こういう態度や行動特性を持ってほしい」という方がより重要な要素となるでしょう。実際、円錐形の組織を上っていけば、職能で分割されていた円の直径は、頂点に向かってどんどん小さくなり分割も収斂します。トップ・マネジメント・チームでは職能というよりは、さまざまな職能を融合した経営力が求められることになりますので、階層への期待の影響が大きいことになります。従って、ここでも、「マーケティング・スタッフだから」という要素よりも、本人が現状で属する階層への適合状況と、次のステップへの準備という視点で、評価やキャリア開発を考察し教育/研修を施していくことになるでしょう。

企業のマーケティングに関わる人材に特に強く必要な点を挙げるとすれば、3つ目の要素の「中心性」になるでしょう。企業内で、どのような名称の部課に属しているかは別として、実質的に、顧客への価値提供を実現し、収益を得て、競争優位性を維持する仕事に関わっている人々であれば、企業マーケティングの担い手であると考えられるので、その人々は、階層に関係なく、トップから垂直に降ろされた中心線に、可能な限り近い存在であることが求められます。比較的大きな経費を使い、他部署への影響も大きく、市場へのインパクトも強く、収益に直接影響を及ぼす活動に関わっていながら、会社の戦略、P/L、市場/競合状況、顧客理解に興味が薄いということは許されません。トップと同様の強度で経営に関与すること、すなわち、中心性への距離が最短であること、あるいは、高いビジネス・アウェアネスを持つことが必要です。

以上のように、マーケティング・スタッフの評価は、明瞭な職能要件、全社的な階層別要件、マーケティング固有の要件として強い中心性が基盤となり、これに、次に述べるようなパフォーマンス評価が加わることになります。なお、今回は、マーケティングを他の経営機能と同列に並べた組織を前提として述べましたが、ブランド・マネジメント制を採用している組織におけるブランド・マネージャーについての要件や評価は大きく異なります。これについては、将来、機会があれば述べたいと思います。

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