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広報担当者のための企画書のつくり方入門

アイデアを選定し戦略的に具現化する企画の全プロセスが知りたい

東京片岡英彦事務所 片岡英彦

「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。

アイディアの具現化と効果的な伝達

新製品を市場に投入する際、広報担当者はその製品の特徴や利点を明確に伝達し、ターゲット・オーディエンスの心に響かせていく。例えば環境に優しい洗剤が開発されたなら、「環境への優しさ」というアイデアを、広報活動を通じて、消費者へと伝え、新たな製品価値として訴求する。その意味で広報活動は「アイデアの伝達」と言える。しかし、私の経験上、アイデアを持っているだけでは、消費者の心に訴えるような広報戦略を展開するのは容易でない。アイデアを現実のプロジェクトに変換し成果を出していかなければならないからだ。本稿では、アイデアと戦略性の融合がどのように効果的な広報活動を生み出すのかを解説し、企画書としてどのように展開すべきかを考えていく。

視点1
アイデアを戦略的に実現する広報企画書

段階的に企画を進める

広報活動は、単に「アイデアを伝達する仕事」では終わらない。その背後には、アイデアを具現化する計画、方向性、予算の配分、メディアの選定など、多くの戦略的な決定が求められる。広報企画書は、これらを明瞭にし、共通の理解を築くための重要なツールであり、評価・改善の土台として中心的な役割を担う。では、アイデアを戦略的に具現化するためにはどのような広報企画書を作成すれば良いのだろうか。これは以下に記す4つの段階に分けて考えると分かりやすい。

まず多くの「アイデアを発掘する」段階では、様々な情報源からのインスピレーションの収集、チームや関係者とのブレインストーミング、既存の問題点やニーズの確認を行い、新しいアイデアや解決策を探求する。次に、発掘したアイデアの中から実行するに値するものを選び出す。この段階では、アイデアの実行可能性、効果、リスク、および独自性などの基準に基づいて、最も適切な「アイデアを評価・選定」していく。そして「アイデアの具現化」の段階。選ばれたアイデアを現実のプロジェクトや計画に変換する。具体的な行動計画の作成、必要なリソースの洗い出し、目標の設定、そしてタイムラインの策定を行い、アイデアを形にしていく。最後に、アイデアをもとに設計されたプロジェクトの成果を「客観的に評価する枠組み」が必要である。定量的に計画の進捗と成果を評価し、プロジェクトが成功したのか、客観的に判断する。

ここからは、それぞれの段階について、さらに詳しく考えていく。

視点2
アイデアを発掘する

新しいアイデアを引き出すブレインストーミング

ブレインストーミングは、多様なアイデアを大量に生み出すための手法だ。チームが自由に思いつくアイデアを共有し、その中から優れたアイデアの候補を複数選定する。その後、これらの候補を評価・整理し、最終的な提案や方針を決定していく。

図1 ブレインストーミングの流れ

●ルールの設定

自由なアイデアを思いつくがまま出し合う環境を保つため、批判や評価を避けるルールを明確に設定

●多様な視点の活用

チームの多様なスキルや視点を活用し、豊かなアイデアを生み出すためのコラボレーションを促進する

●時間制限

セッションに時間制限を設けて、効率的にアイデアを出し合う時間を確保する

●アイデアの整理

ブレインストーミング終了後、出されたアイデアを「出しっぱなし」にするのではなく、優先順位をつけ整理し、次のステップへ進む準備をする

ブレインストーミングの目的を最初に明確に述べることで、後の流れの説明がよりシンプルに、そして分かりやすくなる

ブレインストーミング成功の可否は、しっかりとしたルール設定ができているかに大きく依存する。例えば、初期の段階ではアイデアの幅を広げ、新しい独自のアイデアを引き出すために制約を少なくする。一方で無制限の自由さは非現実的なアイデアとなるリスクもあるため、後期の段階での具体化を考慮し、フィルタリングのプロセスを取り入れることで、実行可能で、価値のあるアイデアに絞り込むことができる。

ターゲット・オーディエンスの理解

ブレインストーミングの過程を経て多数のアイデアが生まれた後、次のステップとして「ターゲット・オーディエンスの理解」が求められる。ブレインストーミングによって生み出されたアイデアの多くは、初期段階では一般的かつ抽象的であることが多い。これらのアイデアが実際に市場で受け入れられ、効果を発揮するためには、ターゲットとなるオーディエンスの具体的なニーズとの相性をよく理解する必要がある。個々のアイデアがどのように市場の生活者に適用されるのかを見極め、その洞察をもとに最も適切で効果的なアイデアを選定する。

図2 ターゲット・オーディエンスの理解のためのポイント

●顧客ペルソナの作成

年齢や性別、属性などの大枠だけではなく、趣味やライフスタイル、日常生活における悩みなど詳細な人物像を想定する

●市場調査の実施とコンテンツのカスタマイズ

例:20代女性向けの化粧品の広報活動を行う場合、市場調査を通じて、ターゲット・オーディエンスが今後どのように変化していきそうかをつかみ、コンテンツをカスタイマイズしていく

視点3
アイデアの評価と選定

アイデアを選定する基準

アイデア発掘後、いくつかの「アイデア候補」を比較・評価して、どれを主力として採用するかを決定する。よく経営者の方たちから、広報やプロモーション活動に関連したアイデアを披露していただくことがある。どのアイデアも興味深いが、時に唐突感を抱くことも多い。アイデアを適切に評価するにあたっては、客観的な評価基準を設けておくことが欠かせないと私は考えている。特に4つの指標「関連性」「革新性」「実現可能性」「予測インパクト」を考慮することをおすすめしている。経験上、特にオーナー企業に多いのだが、経営トップのアイデアが社内で吟味されることなく実行されることがある。アイデアが市場や生活者に受け入れられ「当たる(ハマる)」こともあるが、事業の拡大に伴いステークホルダーも複雑な構成になるため、意思決定のプロセスを効率的に行うことで常に最適なアイデアを選択することが求められるようになる。

図3 アイデアの評価基準(新規事業のカフェのプロモーションにおけるアイデア選定の例)

●関連性

例:「ローカルアーティストとのコラボメニュー」のアイデアが、地域の顧客の文化的ニーズとどれだけ合致しているか

●革新性

例:「VRを使ったバーチャルカフェ体験」のアイデアが、一般的なカフェとどれだけ異なり、新規性があるか

●実現可能性

例:VR技術を導入するためのコストや、アーティストとの契約条件など、どのような制約があるか

●予測インパクト

例:VR体験を提供することで、どれだけの新規顧客を惹きつけられるか、またはアーティストとのコラボでどれほどの売上増加が期待できるか

最適なアイデアの選定

アイデアを前述の評価基準に従って検証した後は、最も実現可能で効果的なアイデアを決定するフェーズに移る。事前に定めた評価基準をもとに各アイデアのメリットを総合的に比較・検討していく。

仮に、新製品のローンチキャンペーンの時期が迫ってきたとする。チームでは次の2つのアイデアに分かれて意見が出ている。1つは大手インフルエンサーとのコラボで、もう1つは街中でのフラッシュモブイベントである。どちらのアイデアがより効果的であるかは、難しい判断となる。このような状況で、「最適なアイデアの選定」のプロセスが非常に重要となる。アイデアを実現するための利用可能なリソース(予算、時間、人材など)を確認し、それをもとに効果的で実行可能なアイデアを特定していく必要がある。

図4 最適なアイデアの選定プロセス

●評価スコアの付与

各アイデアを評価基準に基づき、スコアリングしていく

●優先順位の設定

得られたスコアをもとにアイデアをランキング化し、どのアイデアから具体的に取り組むべきかを決定

●リソースの検討

利用可能なリソース(予算、時間、人材など)を確認し、実行可能なアイデアを特定する

●最終選定

上記の要素を全て考慮した上で、最も適切なアイデアを選定する

視点4
アイデアの具現化

KGIとKPIの設定

選定されたアイデアを具体化、すなわち実際のプロジェクトへと展開していくにあたっては、「KGI(KeyGoalIndicator/重要目標達成指標)」と「KPI(KeyPerformanceIndicator/重要業績評価指標)」を設定した上で、それらを達成するための「ストラテジー」を構築していく。KGIはある活動やプロジェクトが達成すべき最終的なゴールを示し、KPIはそのゴール達成のための進捗を示す中間指標である。アイデアが「何」を達成しようとしているのか、その「何」こそが「KGI」と「KPI」である。

図5 KGIとKPIの設定

●KGI

KGIは広報活動の究極的な狙いであり、ビジョン的な側面を持つ。例えば、認知度の向上や市場でのリーダーシップの強化などが考えられる。KGIを定量的な数値を用いずにスローガンのような抽象的な言葉として掲げるケースをよく目にする。何もかも数値目標を設定することが必ずしも良いとは思わないが、KPIにより具体的な進捗が計測できることが望ましいので、極力、KGIは定量的に「数字」を用いて示すことが望ましい。

●KPI

KPIはKGIの達成に向けた具体的な成果を指す。SMART原則に従い、具体的(Specific)、計測可能(Measurable)、達成可能(Achievable)、関連性あり(Relevant)、期限が明確(Time-bound)という条件を満たすように設定する。

例えば、「大阪での新商品発売を成功させ年間売上を15%アップさせる」というKGIと、「3カ月内に大阪の20~30代の女性に対して新商品の認知度を80%以上にする」というKPIの設定は、広報活動の具体的な進め方や焦点を絞り込むための大事なステップとなる。この明確な方向性が示されることで、広報担当者や関連部署が同じゴールに向かって効率的に動くことが保証されるのだ。

ストラテジーの構築

設定されたKGI・KPIを達成するための行動計画を明確にしたものが「ストラテジー」である。この段階でターゲットを特定し、プレスリリースの発行やSNSなどオウンドメディアの展開、専門セミナーといったオフライン活動など、広報活動に最適な様々な配信チャネルの選択を行うことで、効果を...

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