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広報担当者のための企画書のつくり方入門

ChatGPTを広報に応用 できること できないこと

片岡英彦(東京片岡英彦事務所 代表/企画家・コラムニスト・戦略PR事業)

「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。

生成AIの広報活動への応用

AIの進化により広報活動に新たな可能性が生まれている。中でも注目されているChatGPTは、企業の広報戦略を一新する可能性を秘めていると考えられる。このテクノロジーは、顧客との一対一の対話をより人間らしく、効率的に、そしてスケーラブルに行う(変化に応じて拡張できる)機会を提供している。

一方で、この新しいAI技術を実務にどうやって取り入れたらよいのか、まだAIやChatGPTの活用方法には定まった方法論が確立されていないため、筆者自身も試行錯誤中である。広報担当者からの声を受け、今回はマーケティング思考を取り入れたPR企画について、「7つの(架空の)広報活動」を事例として取り上げ、ChatGPTの活用について探っていきたい。

視点1
ChatGPTで「できること・できないこと」

大量のデータを分析し結果を評価

ChatGPTは、会話型のAIシステムであり、自然言語処理技術を利用している。これは、人間のように自然な対話を行うことができる、という特徴がある。大量のデータを学習し、その知識をもとに質問に回答したり、意見を述べたりすることも可能だ。

私が広報活動の推進において特に重視しているのは、KGI(究極のゴール)とKPI(通過地点の目標)の設定だが、ChatGPTの活用により、データを素早く分析、評価し、KPIにもとづいた改善策を的確に導き出すことが可能となる。これによって、広報活動の効率化と効果の最大化を図り、戦略的な意思決定を行うことが容易となる。


学習にもとづき応答、人間による判断も必要

一方、ChatGPTにはできないことや苦手なこともある。例えば、学習データにもとづいて応答するため、限られた情報範囲内での回答になる。複雑な専門知識や個別の状況に関する具体的なアドバイスを提供することは苦手である。また、情報の正確性や信頼性の保証も課題となる。ChatGPTが誤った情報を提供する可能性もあり、人間の専門家による判断と検証が常に必要である。

人間とAIの協働が広報戦略の新たな可能性を示している一方で、AIの能力を超えた課題には人間の参加が必要となる。このバランスを見つけることが、AIを広報戦略に取り入れる上での挑戦である。また、ChatGPTの活用においては、倫理的な側面や注意点にも留意する必要がある。個人情報の保護やバイアスの排除、人間との適切な連携などが重要だと考える。ツールとして活用する際に、人間の専門知識とのバランスを保ちながら、効果的に活用することが求められている。

図1 ChatGPTにできること・できないこと

【ChatGPTにできること】

❶ データから短時間で文章を作成
 ➡︎(例)プレスリリースの初稿作成
❷ 顧客との対話を24時間行う
 ➡︎(例)チャットボット活用
❸ 市場を分析する
 ➡︎(例)企画にあたっての調査・分析
❹ 自然な文章の生成・書き分け
 ➡︎(例)ブログ記事やSNSコンテンツの初稿作成
❺ ソーシャルメディアの反応を分析
 ➡︎(例)パブリシティ後の反応を評価
❻ データを収集、処理、要約
 ➡︎(例)情報の整理、共有の効率化
❼ 複数言語での対話や文章作成
 ➡︎(例)英語、日本語など多言語でのQ&A
❽ 過去の広報活動や戦略の成功事例、失敗事例からの学習と推奨
 ➡︎(例)過去の広報キャンペーンの成功や失敗から学び、今後の戦略への応用


【ChatGPTにできないこと・苦手なこと】

❶ 複雑な広報知識や企業固有のアドバイス
 ➡︎(例)競争状況にもとづいた広報戦略提案
❷ 情報の全ての正確性や信頼性の保証
 ➡︎(例)最新の法規制についての情報提供
❸ バイアスの排除
 ➡︎(例)バランスのとれたアドバイス提供
❹ 2021年以降の新しい情報の利用
 ➡︎(例)最新の世界情勢についての詳細回答
❺ 完全に独自のアイデア生成
 ➡︎(例)新しい商品PRのコンセプトの生成
❻ 実世界の具体的な状況の理解
 ➡︎(例)現場環境にもとづく広報業務の意思決定
❼ 感情や意図、非言語的な手がかりの理解
 ➡︎(例)非言語的手がかりからの感情分析
❽ データのプライバシー保護問題の管理
 ➡︎(例)個人情報の取り扱い
❾ 高度な倫理的判断
 ➡︎(例)道徳的ジレンマの解決

視点2
広報戦略のシミュレーション

多様なタスクを効率化する

ここからは、ChatGPTが広報戦略にどのように活用可能であるかを7つの架空の事例を挙げてシミュレーションしていく。ChatGPTは、広報戦略に関連する多様なタスクを効率化することが可能だ。現在のところ、企業の広報活動や企画書作成という視点では「市場分析」「コンテンツ制作」「プレスリリースの作成」「広報効果の測定」など、様々なステージでChatGPTの活用例が考えられる。


事例1
ヘルスケアスタートアップの新製品プロモーション

ヘルスケアスタートアップはChatGPTを活用して新製品の商品広報を行った。具体的には、市場や競合他社の製品戦略を、ChatGPTを使用して分析し、その情報を広報戦略の策定に活かした。さらに、商品価値の提案や広報活動に関連する文言の作成など、具体的な広報活動にもChatGPTを活用した。これにより、ヘルスケアスタートアップは市場に適した新製品の効果的な広報活動を実施することができた。

ChatGPTの利用法

● 情報の評価と活用:ヘルスケア業界で注目されているトピックや競合他社の製品戦略などを問い合わせる指示文を作成。得られた情報を参考に、自社の広報活動の方向性を探る。
● 顧客との対話をシミュレーション:特定のユーザーセグメントを設定し(例:フィットネス愛好家、高齢者、新規顧客など)それにもとづいてChatGPTに質問やフィードバックを与え、顧客インタビューや顧客調査をシミュレーションする。


広報担当者が気をつけたいポイント

具体的な指示文にすることで、より適切な回答を得ることができる。ただし、ChatGPTが提供する情報は、学習データにもとづいて生成されるため、情報の正確性や最新性を確認する必要がある。重要な意思決定に際しては、他の情報源との照らし合わせを行う。顧客との対話シミュレーションも参考にはなるが、必ずしも実際の顧客の声と一致するわけではない。重要な意思決定には人間の視点を組み合わせて考慮する。


事例2
高級ファッションブランドのオウンドメディアのコンテンツ制作

この高級ファッションブランドは、新商品の紹介や季節のトレンド情報などを提供するブログを運営していたが、常に新鮮で魅力的なコンテンツを提供し続けることが求められていた。ChatGPTには、季節のスタイリングアイデアなどを提供してもらい、それらをもとにブログ記事の初稿を作成した。ChatGPTの支援により、ブランドはコンテンツ制作の効率化を図るとともに、質の高い記事を短期間で作成し、ブランドの魅力をより多くの顧客に伝えることができた。

ChatGPTの利用法

● コンテンツのアイデア:ChatGPTに対し、探求したいファッションに関するトピックや季節のスタイリングアイデアについて具体的な質問を設定する。ChatGPTから得られた情報をもとに、記事のアウトラインを作成する。このアウトラインは、記事の構成やトピックごとの主要なポイントを整理するためのガイドラインとなる。
● 本文の生成:アウトラインにもとづき、ChatGPTに記事の本文を生成させる。ここで重要なのは、生成されたテキストはあくまで「初稿」であり、完璧な完成品ではないという認識である。
● 内容のレビューと調整:生成された記事の内容を広報担当者がレビュー(評価)し、ブランドのトーン・マナー、正確性、読者にとっての有用性などを確認する。必要に応じて手動での調整を行う。


広報担当者が気をつけたいポイント

ChatGPTの知識は2021年までの情報に限られている。以降の新しいトレンドや情報については十分な精度で答えられない場合がある。ChatGPTから得られた情報はあくまで参考の一つとし、他の信頼性のある情報源も同時に参照する。生成された内容をレビューし、ブランドのトーン・マナーにあっているか、正確な情報か、読者にとっての有用性があるかなどをチェックする。人間の感覚やニュアンス、文脈を十分に理解していない点を手動で補う。


事例3
エネルギー企業のプレスリリース作成

あるエネルギー企業が、再生可能エネルギープロジェクトの開始を伝えるプレスリリースの作成を、ChatGPTを使って行った。企業がChatGPTに提供した情報(新プロジェクトの概要、達成目標、期待される影響など)にもとづいて、効果的なドラフトが生成された。これにより、企業の革新的な取り組みが媒体や一般の人々に適切に伝えられた。

ChatGPTの利用法

● ドラフト作成:環境に関連した行動指針や持続可能性の取り組みに関する詳細な情報をChatGPTに入力し、情報にもとづきプレスリリースのドラフトを生成...

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