新聞や雑誌などのメディアに頻出する企業や商品リリースについて、PRコンサルタントの井上岳久が配信元企業に直接取材。背景にある広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウを、じっくり分析・解説します。
今回は、普段あまり紹介することのない、プレスリリースよりもまとまった情報量を提供する「ニュースレター」を取り上げたいと思います。
カレーやスパイス商品などのメーカーであるエスビー食品は、2023年に創業100周年を迎えました。2020年10月頃に100周年のプロジェクトチームを結成し、全社員に向けて100周年記念商品のアイデアを募集。すると865件もの案が集まり、「社員全員が100周年を自分事として捉えてほしい」という目的は果たせたようです。
3次まで選考会を行なって選ばれたのが2つの案。1950年に発売した「赤缶カレー粉」という同社のシンボリックな商品を使いやすい小分けスティックにした「カレー粉スティック」と、この商品をベースにした粉末タイプのルウ「赤缶カレーパウダールウ」です。
「一人で2~3案応募する人もいました。審査は100周年に相応しいものであるとともに、今後の基幹商品になるもの、そして実際に商品化できるものを基準に選定。スティックタイプは6人、パウダールウは3人の応募があり、海外営業担当から総務担当まで、まったく違う部署の人が同じアイデアを出していました。社内表彰式ではその9人全員に楯と賞金が贈られました」と、広報・IR室の野瀬ゆり子さん。
今回の2商品は、赤缶カレー粉に馴染みの深い年配層はもちろん、若い世代にもカレー粉に親しんでもらえる商品となっており、100周年記念に相応しい商品といえるでしょう。
広報のメンバーもプロジェクトチームに参加していたため、情報は初期段階から入ってきていました。2023年2月6日の発売を前に、1月19日にリリースを配信。2商品それぞれのリリースと同時に作成したのが今回のニュースレターです。
野瀬さんによると、エスビー食品がニュースレターをつくり始めたのは、ここ2~3年のこと。同社では年に2回、メディア向けの商品発表会を開催しており、その際に情報ボリュームのあるニュースレターをつくっていました。そこから派生して、PRに注力したい既存商品や、社会情勢的に情報を出したい商品などについてニュースレターをつくるようになり、年に6回ほど配信しています。
メディアが求める情報を配置
(ポイント1)まず1枚目では企画の経緯を図式やイラストを交えて上手にストーリー化。単なる記念商品の販促キャンペーンではなく、全社を巻き込んだ大規模企画であることをアピールしています。募集や授賞式があったことを知ると、記者としては該当者に話を聞きたくなるもの。上手なのはすぐ下に、受賞式の様子を収めた動画や画像、受賞者インタビューの素材が提供できる旨を表示していることです。
2枚目には創業から100周年までを年表化しています。(ポイント2)100年分となると、書き方によってはかなりのボリュームになりますが、ワンシートで上手にまとめています。その中で、赤缶カレー粉が同社にとって非常に重要な商品であることを「原点にして頂点」というフレーズで表し、同社がスパイスとハーブに注力していることも盛り込んでいます。さらに記者が聞きたい「これから」についても盛り込んでいるのは見事です。