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実践!プレスリリース道場

息の長い露出を獲得、ケンミン食品「インフレ手当」リリース

井上岳久(井上戦略PRコンサルティング事務所・代表)

新聞や雑誌などのメディアに頻出する企業や商品リリースについて、PRコンサルタントの井上岳久が配信元企業に直接取材。背景にある広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウを、じっくり分析・解説します。

焼ビーフンでおなじみのケンミン食品。かつて取り上げたギネス認定の話題に続き、今回は「インフレ手当」のリリースを紹介します。

近年の物価上昇が家計を直撃していることはご承知の通りで、社員や家族を支援しようとインフレ手当を支給する企業が増えています。ケンミン食品では、代表取締役社長の高村祐輝さんがスーパーマーケットで食料品の価格上昇を実感。2022年7月に勤続1年以上の正社員・契約社員190人に5万円のインフレ手当を支給しました(1年未満の人は期間に応じた金額)。

当初、広報室長の田中国男さんはプレスリリースを出しませんでした。あくまで社内的な福利厚生であり、対外的に発表することだとは考えなかったのです。その後、別案件で業界紙の『日本食糧新聞』(日本食糧新聞社)に取材対応した際、余談としてインフレ手当のことを話すと1面で紹介されることになり驚いたと言います。

業界紙が拡散のきっかけに

掲載から約2週間後には時事通信社からも問い合わせがありました。サイボウズのインフレ手当支給を記事にまとめようと調査していた際に『日本食糧新聞』のウェブを見たそうです。こういうケースもあるので、業界紙に掲載されることも大事なのです。

この時点で、田中さんは時事通信から地方紙に拡散されると想定しリリースを作成。メディアには既出しているので自社サイトと配信サイトに掲載し、一部懇意のメディアにメールを送るだけに留めました。しかしその後、産経新聞のウェブ版に掲載されたことからYahoo!にも転載。また消費者物価指数発表のタイミングで共同通信にも掲載され、9月と10月は地方紙の掲載ラッシュに。約4カ月にわたり40のメディアに掲載される息の長い露出になりました。それだけバリューの高い話題だったということでしょう。

同社では12月に第2弾として、家族の人数×1万円の「生活応援一時金」を支給することにしました。この頃には次第にインフレ手当を支給する企業も増えていましたが、家族の構成人数が多く、支出の多い人により支給をしたいという考えから制度を見直し、高村社長の「社員の生活を応援したい」という意図を名前に入れて「生活応援一時金」としました。

前回の大反響があったため、田中さんも今回はきちんとリリースを出そうと、12月9日の支給に向けて早めから準備に取り組みました。ところが11月17日に帝国データバンクからインフレ手当に関する調査リリースが配信され、産経新聞と読売テレビから問い合わせが入ります。そこで田中さんは「今しかない」と時機を読み、準備していたリリースを急きょ完成させ、その日の午後に配信したのです。

ではそのリリースの実物を見てみましょう。

(ポイント1)リリースは毎回、シンプルに1枚でまとめています。特に第1弾は、タイトルが1行のみ、図版はひとつもないシンプルさです。田中さんは「急いで出すことになったので、図版まで考える余裕がなかった」と言いますが、こうした業務報告的な内容は、図版を入れるとPR色が出てしまうため、これくらいシンプルでもいいのです。ただ余裕があれば、文字だけで入れている社長の意図を、社長の顔写真とともにコメントとして表現してもよかったのかなと思います。

インフレ手当支給に関するリリース

(ポイント2)本文では支給の「背景」をしっかりと書いています。社長がスーパーで支給の必要性を感じたエピソードは、田中さんが雑談の中で聞いたことを...

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