新聞や雑誌などのメディアに頻出する企業や商品リリースについて、PRコンサルタントの井上岳久が配信元企業に直接取材。背景にある広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウを、じっくり分析・解説します。
レトルトカレーを食べたいけど、お湯を沸かすのは面倒臭いし、電子レンジでは発火してしまう……そんな悩みを解決してくれるのが、アピックスインターナショナルのレトルト専用調理器「レトルト亭」です。
トースター型の本体にパウチを入れてダイヤルを回すだけの便利さが受け、2022年上半期の「日経MJヒット商品番付」にも選ばれました。かつて別メーカーでも同様の商品がいくつかありましたが、残念ながら鳴かず飛ばずで消えてしまいました。今回のヒットには、どんな秘密があるのでしょう?
商品を発案したのは新型コロナウイルス感染症が蔓延し始めた2020年4月。在宅勤務が増え、小売店の棚からレトルト食品が消えたと話題になった時期でした。「私もよくレトルト食品を利用していましたが、キッチンに行くのが面倒で、こたつのヒーターで温めてみたら少し温まって食べられたのが発想のきっかけでした」と話すのは商品開発部で広報も担当している佐藤元紀さんです。電子レンジのようにマイクロ波で急速に熱を加えるのでなく、徐々に加熱することで発火させずに温めることが可能になりました。
意外に苦労したのは、製造を依頼した中国にはあまりレトルト文化がなく、商品を理解してもらえなかったこと。中国に進出している日本のスーパーマーケットでレトルト商品を探してもらい、やっと理解してもらえたそうです。トースター型にしたのは、いつでも使えるように電子レンジ横のすき間などに置いてもらうためで、薄さも約8㎝と収納のしやすさを実現しています。
「レトルト亭」のネーミングは、佐藤さんが上長と50ほどアイデアを出し合い「気軽に行ける定食屋がイメージできて、噺家さんのような親しみやすさもある『レトルト亭』に決めました」とのこと。利用者からも「覚えやすい」との声が聞かれるそうです。
クラファンを広報に活用
そして、この商品のヒット要因は、クラウドファンディングを活用したことにあります。資金集めのイメージが強かったクラファンですが、現在は様々な活用法が生まれています。2020年1月に同社に転職した佐藤さんは、前の勤務先でクラファンの効果を感じたことがあったといいます。「いきなり店頭に出しても何の商品か気づいてもらいにくいので、ガジェット好きな層に向けて先行販売した方が、火が点くのが早いと感じたんです」
それまでクラファンの経験がなかった同社では躊躇する声もありましたが、佐藤さんの熱意が受け入れられました。プラットフォームはガジェット好きな男性利用者が多いMakuakeを利用し、最初の100台は20%オフ、次の250台は15%オフで販売するなどの条件で募集記事を公開しました。
そして、この時点で第1弾のリリースを配信。目標達成率の高いものはプラットフォームのトップページに掲載され、その後の販売にも好影響があるからです。リリースを使って、以前から付き合いがあった『家電Watch』(インプレス)で掲載してもらうと一気にSNSでバズり、初回製造した1200台が27時間で完売。慌てて2000台を追加発注しましたが、それも1週間弱で完売したといいます。
生産体制を整え、一般販売を開始する2022年1月に配信したのが今回紹介するリリースです。
(ポイント1)まずタイトルでクラファン販売実績をPRの切り口として前面に押し出しています。「目標額4000%越え」という数字は、佐藤さんが「40倍と書くよりも、4000%と...