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広報担当者のための企画書のつくり方入門

パブリシティ活動の目標設定と効果測定を企画書にまとめたい

片岡英彦(東京片岡英彦事務所 代表/企画家・コラムニスト・戦略PR事業)

「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。

新商品のパブリシティ活動での目標と効果測定

「広報活動」という言葉の定義は実に難しい。ある人は「コーポレートブランディングを強化するための長期戦略」だと考える。また、ある人は「新商品の売上を上げるためのメディア露出強化」だと考える。もちろん、どちらも間違ってはいない。しかし、どのように「広報活動」を解釈するにしても、必ず誰もが「難しい」と考えているのが、パブリシティ活動の「数値目標の設定」と「効果測定」についてだ。今回は広報担当者が企画書を作成する際に欠かせない目標設定と効果測定方法について、「新商品のパブリシティ」を題材として考えていく。

視点1
「数値目標」を設定する

「数値目標」の項目

新商品の発売に向けて認知度向上や売上拡大を目指してパブリシティ活動を計画するにあたり、数値目標としては図1のような項目が挙げられる。

図1 「数値目標」として想定される項目

a. メディア露出量:新商品に関連する記事の数、メディアでの言及回数など
b. 広告換算値(AVE):獲得したメディア露出を広告として購入した場合の費用に換算
c. メディアリーチ:露出が届いた人数(視聴者数・読者数)
d. オンライン指標:ウェブサイト訪問者数、SNSエンゲージメント(いいね数、シェア数、コメント数)など
e. 露出内容の品質評価:新商品に関するメディア露出の内容の質


(a)メディア露出量の目標設定

広報部門では過去の実績や業界平均を参考にして「数値目標」を設定するのが一般的だ。そのうえでメディアリストを作成し、短期・中期・長期の段階的な目標を設定する。単なる“理想上の”数値目標ではなく“現実的な”目標の設定を行い、活動開始後は目標達成状況の定期的な確認と見直しを行う。社内チームに目標設定のプロセスに参加してもらい協力を得ることが望ましい。以下注意すべきポイントを挙げる。

● 過去の実績や業界平均を参考にする
過去の自社のパブリシティ活動の成果や、同じ業界の企業が行った類似の広報活動の実績を参考に目標値を設定する。すると、極端に達成困難な数値を設定したり、自社の広報活動の潜在力を過小評価し消極的な数値を目指したりするのを避けられる。

● メディアリストの作成
ターゲットとするメディア(新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、オンラインメディアなど)のリストを作成。それぞれのメディアでの目標となる露出数の設定を行う。この時、メディアの規模や対象読者・視聴者層を考慮し、適切な目標値の設定になるようにする。

● 新商品の特性と市場環境を考慮
新商品の特性(革新性やニーズ、競合他社との差別化要素など)や市場環境(季節性、トレンド、競合状況など)を考慮することで、現実的かつ達成可能な目標設定つながる。

● 目標は段階的に設定する
短期的な目標(1カ月後)、中期的な目標(3カ月後)、長期的な目標(6カ月後~1年後)を設定し段階的な達成を目指すことが望ましい。目標達成の進捗が把握しやすくなり、効果測定や広報戦略の見直しも容易になる。無理な目標設定を行うと、チームのモチベーション低下を招き、結果的にプロジェクト自体が失敗に終わることがあるので注意する。また達成状況や市場状況に応じて目標は見直していく必要がある。仮に目標達成がスムーズに進んでいる場合であっても、状況変化に柔軟に対応できることが望ましい。

● 露出の「質」に考慮する
「(何でもいいから)とにかくメディア露出させたい」と数値目標が独り歩きすると企業ブランドを毀損することにもつながりかねない。「新商品に関する記事の数」「メディアでの言及回数」「オンラインでのシェア回数」などの数値目標だけに終始するのではなく、品質面の目標も設定が必要だ。具体的には、記事の質やメディア露出のポジティブ度、適切なターゲット層にアプローチできたかなどが重要になる。

● 企業全体のKPIと連動させる
企画書内で設定する広報部門の活動目標は、企業全体のビジネス目標に貢献するKPI(重要業績評価指標)と直接関連している必要がある。目標の達成によって企業がどのように成長するのか。この“紐付け”を企画書の作成時にはしっかり行いたい。単なる「数値目標」ではなく、「意義のある、成長のための」目標であるためにこれは欠かせない。

(b)広告換算値(AVE)の目標設定

AVEとはメディア露出を、広告として購入した場合の費用に換算する指標を示す。目標金額を設定する際は、過去の実績を参考にし、市場状況や商品特性を考慮し達成可能な目標の設定を行う。以下にポイントを整理する。

● マスメディアでの算出
新聞や雑誌では記事の面積、テレビやラジオでは放送時間を計測することが一般的な換算方法の基本だ。各メディアが設定している広告料金を調べる。例えば新聞や雑誌では、掲載面積やカラムあたりの広告料金を調べる。テレビやラジオでは、放送時間あたりの広告料金を参考にする。測定したメディア露出の大きさ(規模)に対応する広告料金を計算して合計した数字(金額)=AVEとなる。

● ネットメディアでの算出
メディア露出の規模を測定するには、記事の掲載箇所やバナー広告のサイズ、表示回数などを計測することから始めるのが一般的だ。マスメディアの場合と同様、各ネットメディアが設定する広告料金を調べる。CPM(1000インプレッションあたりの料金)、CPC(クリックあたりの料金)、固定費制など料金体系は様々だが、この測定したメディア露出の規模に対応する広告料金を計算し合計することでAVEが算出される。

● AVEの限界を理解する
AVEは露出量や広告料金にもとづき、広報活動の効果を定量的に評価する指標で、質的な効果(ブランドイメージの向上、ターゲット層への訴求力など)を測定することは難しい。広報活動の目標をAVEだけに依存せず、必ず質的な面での効果も目標設定に加えるよう検討する。AVEの目標設定時には、ターゲット層に届く適切なメディア(アタック)リストを作成することになるが、それぞれのメディアでの個々の目標露出数を設定することが「質」の担保の面でも重要だ。

● ビジネス目標に寄与するKPIを設定
AVEだけでなく、具体的なビジネス目標に寄与するKPIを設定しておきたい。例えば、ウェブサイトへの流入数やリード獲得数、売上などの指標へと落とし込んで数値目標とすることが考えられる。こうした具体的なKPIは商材や業態によっても異なる。また他部門に対する広報部門の業務の評価にもつながりやすい。

(c)リーチの目標設定

メディアリレーション活動で獲得した「露出が届いた人数」(視聴者数・読者数)を目標として設定する。獲得したいターゲット層を明確にした上で、各メディアでの目標露出数の設定を行う。このことで、ターゲット層への適切なアプローチと質的な評価指標の設定が可能になる。

● メディアリストの作成と目標露出数の設定
掲載を望むメディアをリストアップし、各メディアの視聴者数・読者数を調査する。まず、過去の実績や競合分析などから、商品やサービスのターゲット層を明確にした上で、商品PRのために最も効果的なメディアを選定する。次に、どれだけの人数にメッセージを届けたいのかを具体的に決定する。そして、市場規模や競合、商品の特性を考慮し、現実的な数値目標を設定する。最後に、作成したメディアリストに基づいて、全体の目標人数を達成するために、各メディアで獲得するべき視聴者数・読者数などを割り振っていく。

もっとも広報活動を進めていく中で、媒体選定など戦略の見直しが必要となるケースは多い。具体的には、掲載を想定していたメディアで掲載されなかった場合や、掲載が延期された場合などが考えられる。掲載日の遅れなども含め、数値目標の達成に至らない場合には、戦略全体の見直しや追加施策の検討を早期に行う。

(d)オンライン指標の設定

目標設定の際は、具体的(Specific)、測定可能(Measurable)、達成可能(Achievable)、現実的(Realistic)、期限付き(Time-bound)であることが望ましい。オンライン指標を設定する際には、この「SMART原則」に基づき、ターゲット層とKPIを明確にする。

● 測定可能な具体的な目標設定
過去のデータなどから、ウェブサイト訪問者数やSNSエンゲージメントのデータを分析し、傾向や成長率を把握することで、精度の高い目標設定が可能になる。この時、オンライン上でアプローチするユーザー層や、商品やサービスのターゲット層を明確にすることで、効果的なオンラインPRの立案が可能となる。

特にECなどのオンライン上での広報活動が中心のビジネスモデルの場合は、ウェブサイト訪問者数やSNSエンゲージメントだけではなく、リード獲得数、コンバージョン率、売上なども指標として設定しておきたい。さらに具体的なビジネス目標に貢献するKPI設定が可能になると、結果として、どのようなコンテンツやキャンペーンを実施するか、どのようなチャネルを活用するかなど、デジタルマーケティング活動を展開していく際の重要な意思設定の手助けにもなる。

● 質と量のバランス
オンライン指標の目標設定の際にも、SNSエンゲージメントやウェブサイト訪問者を「数字」として追求するだけでなく、「コンテンツの品質」と「量」の「バランス」はしっかり考慮したい。質の高いコンテンツは、ユーザーの信頼を得られ長期的なエンゲージメントにもつながる(ただし、このパブリシティ活動の「長期的効果」は、広報活動の目標設定や効果測定を行う上では数値化しにくい)。

● ターゲット層が複数の場合
複数のターゲット層がある商品の場合には、セグメントごとに異なる目標設定を行う必要がある。それぞれのターゲットに適したコンテンツ施策を実施することで、各セグメントに対して効果的なアプローチとなる。しかし、私はあまり細かくセグメント分けし過ぎることは勧めない。施策から全体感(相乗効果など)が失われ“部分最適化”に留まってしまう失敗を経験してきた。あくまで「バランス重視」でいきたい。

● チャネル別の目標設定
ウェブサイトやSNSに加えて、パブリシティ活動に関連した検索エンジン最適化(SEO)や、メールマーケティング、広告など、複数のチャネルを活用したチャネル別の目標設定と、目標を達成するための戦略立案が必要だ。私のこれまでの経験上、マーケティング部門に組織が近い広報部門(例えば商品PR部やマーケティングコミュニケーション部)の場合、この辺りの感覚を持ち合わせていることも多いが、管理(経営)部門に近い広報組織の場合(例えば、広報IR部や総務広報部)では、オンライン施策や目標設定に不慣れなことが多い。しっかり準備と対策を行いたい。

(e)品質の評価

メディア露出の内容の「質」を評価する際には、以下の点に注意してビジネス目標に直結するKPIの選定を行う。品質評価を怠ると「露出量」の目標数値が独り歩きして広報活動に弊害が...

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