メディア研究などを行っている大学のゼミを訪問するこのコーナー。今回は、大学広報の分野をリードする近畿大学。ロイター出身の金井啓子ゼミです。大学の建学精神がゼミの授業でどのように表れているのかについても聞きました。

金井ゼミは現在Zoomとリアルのハイブリッドで実施している。
DATA | |
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設立 | 2010年(文芸学部) |
学生数 | 3年生15人、4年生14人 |
OB/OGの主な就職先 | 朝日新聞社、山陽新聞社、四国新聞メディア、北國新聞社、下野新聞社、ADKマーケティング・ソリューションズ、IVSテレビ制作、トムス・エンタテインメント、ベネッセハウス(直島文化村)、バレットグループ、エースコック、近畿日本鉄道、JR西日本SC開発、積水ハウス、青山商事 |
本格的な取材活動は「実学教育」の現れ
2020年、6年連続志願者数日本一を達成した近畿大学。「早慶近」「近大マグロ」といった独特な切り口が光る同校の広報はその独自性と圧倒的なリリース量で、メディアからも一目置かれている。本誌でも前回の大学特集で同校の広報に対する担当者の声を取材した。ジャーナリズム研究を行うゼミを受け持つ、ロイター通信社出身の金井啓子教授も「本学の学校全体のアピールやメディア対応を見ていると、記者の『こんな取材をしたい』という要望に対して柔軟な行動をとっていて、教員としても心強いです」と話す。
元ロイター記者から直接指導
近畿大学の建学の精神は「『実学教育』と『人格の陶冶』」。「人に愛される人、信頼される人、尊敬される人の育成」を教育理念として掲げる。
建学精神にある「実学教育」において、金井教授のゼミでは、実践的な取材と記事執筆を通じて、ジャーナリズムを学ぶことを主な活動として行っている。ロイター通信出身で現在も取材や記事執筆も行う金井教授からのフィードバックはゼミの魅力のひとつだ。
昨年3月に卒業後、山陽新聞社に就職したゼミOG、森田奈々子さんは「ロイターで編集担当だった先生から文章の添削を受けられるのは貴重な体験でした。取材、記事執筆の基本のキを教わり、そのまま今の仕事につながっています。(先生は)自身の経験について失敗を含め、包み隠さず話してくれ、アドバイスも的確でした」と振り返る。
興味を深掘りするおもしろさ
ゼミでは3年前期に「自分の興味のある職種をインタビューして5000字の記事」、3年後期に「社会で疑問に思うことをテーマに1万字」、そして4年次には卒業作品として「最低3人以上にインタビューを行った1万5000字の記事」の執筆が課される。テーマはアミューズメント施設、ファッション、美容整形など学生ごとに様々。過去には競馬が好きな学生が、引退馬が殺処分されることに対して疑問を抱き、関係者に取材を行ったり、相撲好きな学生が「元大相撲力士たちのセカンドキャリアを考える」をテーマに記事を書いたりと、自由に設定できる。
「学生自らテーマを決め、アポをとり、取材し、記事にする。外部に出すものではないですし、レイアウトの方法も特に指定はしていませんが、3年、4年次と経験を重ね、また他のゼミ生の作品などを見たり、ときに評価したりするなかで、どんどんレベルアップしていくのが分かります。自分の“興味”に対して深掘りできるおもしろさや、その分野の人に会える楽しさを知ってもらえればと思います」(金井教授)。

4年生の卒業制作に関する中間発表会。3年生も参加しており、次年度に向けての勉強会の場にもなっている。
自分を表現できる力をつける
また、「自分が思っていること、感じたことを文字や言葉で多彩に表現できるようになってほしい。ゼミでは最近の出来事についてのスピーチやディスカッションなど記事執筆以外でも発信の場を多く取り入れています」と金井教授。自身も学生時代、アメリカに留学をした際、自分の意見を言うことでフィードバックがもらえる、新しい発見がある、という良いサイクルが回っているのを感じたという。
実際、森田さんも「大学の講義はたくさんの知識を得ることができますが、アウトプットする機会はあまりないように思う。言葉や文章にしてみると、『自分って意外とこんな考え方をするんだ』『普通と思っていたけど、みんなに話すと案外自分の特技なのかも』と何度も新しい発見がありました。この経験が就職活動のときの自己PRなどに活きています」と話す。
「メディア志望の学生は多いが、一般企業やまったく違う志望の学生もいる。ジャーナリズムを学ぶ中で人とのコミュニケーションや意見の出し方など、これからの社会を生き抜く為の基本を身につけてもらえたら」と金井教授。成長する学生を見守るゼミ。まさに「人格の陶冶」の場と言えそうだ。
ジャーナリストの姿を伝えたい!常に知識や経験をアップデート
元々ロイター通信社でエディターとして活躍していた金井教授。「元々記者でしたが、大学に来る前は記者が書いた原稿を添削・校閲したり、追加取材を指摘する部署にいました。私自身自分が記事を書くより、人の記事を深掘りしていくことに魅力を感じるようになり、縁あってこの職に就くことになりました」。
「『経験は古びる』。私と同様に記者から大学教員に転じた先輩から言われた言葉です。もちろん経験談もたくさん話すようにしていますが、ジャーナリストとして、新しい知識や経験への探求は、これからも忘れないよう心掛けていきたいです」。

近畿大学
総合社会学部
金井啓子(かない・けいこ) 教授
1990年からロイタージャパン 編集部 記者として18年間にわたりロンドン、東京、大阪で活躍。2008年から近畿大学 文芸学部 准教授。2017年から現職。2019年10月から2020年3月までサンフランシスコ州立大学 客員研究員を務める。専門はジャーナリズム。