社内で心をひとつにする旗印ともなる企業ステートメント。広告コピーの書き手である岡本欣也氏が、実例を挙げながら、その役割や書き方、発想について解説します。
コピーライティングの実務の中で、いちばん実感していること。それはクライアントからステートメントを求められる機会が増えたことです。短く呼びかけるキャッチフレーズだけでなく、本文、ステートメントがついた企業広告には、歴史やこれからのビジョン、存在理由、社会的価値などが凝縮されています。
企業が「語る」広告は、リストラが激しく行われた20世紀後半のバブル崩壊後に台頭してきました。事業の不安定さが続き、人々が「なんで働いているんだろう」「私はこの会社にいていいんだろうか」と不安を覚えた時代です。ある種の社員のメンタルケアとして、「インターナル広告」をつくろうという機運が生まれました。
「今日より明日が良くなる」と無条件に思っていたのに、「どうやら今日より明日はそんなに良くならないかもしれない」という不安が広がる。そんなとき、未来の希望を提示し、みんなの心をひとつにするために「ステートメント」の重要性が叫ばれるわけです。そういった機運は、ここ数年の「パーパス(存在価値)ブランディング」とも底流で深くつながっていて、今後はさらに大きな流れを形成すると私は考えています。
夢を語る「宣言」
働く人の心をまとめ、さらには取引先や世の中に対しても思いを語ったステートメントの代表例を紹介します。ひとつは、ユニクロを運営するファーストリテイリングが1999年に出した新聞広告です(図1)。
心がひとつになる!企業ステートメント❶
POINT
1999年の企業広告で「世界一のカジュアルウェア企業になる」と宣言。従業員だけでなく、取引先や世の中に対して会社のビジョンを示すことで一人ひとりの夢をも牽引し、社内の一体感を高めたことだろう。
「ユニクロはなぜジーンズを2900円で売ることができるのか」という問いかけに始まり、「山口県山口市大字佐山から、世界一のカジュアルウェア企業になる夢をもっています。きっと、なります。」という宣言で締めくくられています。その当初は“壮大な夢”だったかもしれませんが、20年の時を経ておそらく本当に実現しているわけです。ステートメントを書き、「揺るぎない大義」を語ることで、働く人一人ひとりの夢を牽引したのではないか、と思っています。
手紙だと思って書く
伝わりが早い、理解されやすい「ステートメント」を書く上で大切なことは何でしょうか...