日本唯一の広報・IR・リスクの専門メディア

編集会議2019 SPRING

インタビューでは、不意をつく質問と相手に寄り添う質問、どちらが正解?

毎日放送の番組『ちちんぷいぷい』に約20年間出演してきた西 靖アナウンサーが「編集・ライター養成講座 大阪教室」で特別講義を行い、先輩アナや黒柳徹子さんの話を交えて「答えのないインタビュー論」を語った。

毎日放送 チーフアナウンサー 西 靖(にし・やすし)氏
1971年、岡山県岡山市生まれ。大阪大学法学部卒。1994年、毎日放送に入社。2011年から『ちちんぷいぷい』メインパーソナリティ。2014年からは『VOICE』のメインキャスター、2019年春からは新番組『ミント!』でニュースキャスターも務める。他に、神戸女学院大学名誉教授で思想家の内田樹氏、精神科医の名越康文氏とともに深夜番組『辺境ラジオ』を担当。

"一番輝く瞬間"を引き出す

私は1994年に毎日放送(MBS)に入社したので、もう四半世紀もアナウンサーの仕事をしていることになります。入社した翌年には阪神・淡路大震災が発生し、被災地の取材なども体験しました。現在は、夕方の情報番組『ミント!』(月~金曜日、午後3時49分~7時)のニュースキャスターなどを務めています。

アナウンサーは単なる"喋り手"だと思われがちですが、我々の仕事は用意した原稿をそのまま読むだけではありません。情報を咀嚼して、分かりやすく伝えることが求められています。

また、アナウンサーは"聞き手"でもあります。関西のアナウンサーは特に、東京のアナウンサーに比べて役割が多岐にわたり、インタビュアーとしてお仕事をさせてもらうことも多いので、そう感じるのかもしれません。話を聞いて情報をもらいつつ、相手の"一番輝く瞬間"を引き出すことも我々の大きな役割なのです。

ここでいう情報とは、文字としてのコメントだけではなく、表情や、私との距離感などを含めた空気感のことでもあります。そういった意味でも、アナウンサーは編集者やライターと同じ「伝え手」です。

準備万全で挑んで惨敗

インタビューで思い出深いエピソードがあります。1999年から放送が始まった情報バラエティ番組『ちちんぷいぷい』(月~金曜日、午後1時55分~5時50分)の中で、解剖学者の養老孟司さんに取材をする機会がありました。

ベストセラー『バカの壁』でおなじみの養老さんが新刊を出すということで、京都に来られるタイミングでインタビューをすることになったのです。午前と午後に30分ずつ、計1時間をいただけるということで、午前中は当時メインキャスターを務めていた角淳一さんが、午後は私がインタビューを行って、どちらが面白いかを比べようといった企画をすることになりました。

当時まだ若手だった私は、取材前にできることはすべてやっておこうと、養老さんの著書をしっかり読みました。趣味で書かれている昆虫の本なども読み、できる限りの準備をして取材に臨んだのです。

準備の甲斐あって、「この本でこういったことをおっしゃっていましたが~」「最近◯◯に凝っていらっしゃるんですよね」など、予習した知識を駆使して質問し、取材はうまくいきました。

一方の角さんは、なんと養老さんの著書を一冊も読まずに取材へ。そして、用意していった質問はただひとつ、「養老さんは、"素敵なオス"ってなんだと思います?」のみでした。準備も予備知識もすっ飛ばして、生物の根源に迫りたかったのだと思いますが、養老さんに「そんなの知らないよ」と一蹴されて、スベってしまいました。

30分間のインタビューの撮れ高としては、私が勝ったと思います。けれど実は、放送では角さんのインタビューの方がウケました。親近感のあるキャラクターで、関西のお茶の間に親しまれていた角さんだったからこそ、「角淳一は、あの養老孟司さんに爪楊枝みたいに小さな刀で立ち向かって負けた」というコンテンツとして成立したのだと思います。私はこの時の角さんのインタビューを見て、当たって砕ける自分の姿まで想像できていた角さんの"凄み"に気づかされました。

「編集・ライター養成講座 大阪教室」の開講式で登壇する西氏。

話したいことを話せるように

それからしばらくして、黒柳徹子さんにインタビューする機会がありました。黒柳さんの出演する舞台の告知を兼ねてお話を聞くものでした。角さんに影響されたわけではないですが、インタビューの際には告知や宣伝に終始するのではなく、他の人がしないような質問をして、テレビの黒柳さんとは違う面を引き出したいと思っていました。

そこで、「同一司会者によるトーク番組の最多放送」としてギネス世界記録を持つ『徹子の部屋』で司会を務める黒柳さんに、"インタビュー論"そのものを聞こうと思ったのです。

インタビュー開始後、私は唐突に「どうやったら、相手が鎧(よろい)を脱いで素を見せてくれるような、はっとする質問ができますかね?」と問いかけました。すると、黒柳さんはこうおっしゃったのです。「あなた、面白いことをおっしゃるわね(笑)。相手を困らせるのがいいインタビューかしら?」。

さらに、「私はお相手が気持ちよく話せるようにインタビューするようにしているの。そのほうがいい表情をされるし。虚をつく質問は相手をうろたえさせ、結果として殻に閉じこもらせてしまうわ」と続けられました。

ああそうか、と私は思いました。イソップ物語の『北風と太陽』だと。相手を無理に裸にするインタビューではいけない。ゆっくりと質問を重ねていった結果、相手が鎧から一枚ずつ脱いでいき、結果的に「つい喋りすぎちゃいました」と言われるのが、黒柳さんの考えるいいインタビューなんだろうなと。

型どおりのインタビューではつまらないし、相手を困らせるのもよくない。隠し球的な質問は必要でしょうけど、角さんみたいに隠し球ひとつだけで勝負する勇気はまだありません(笑)。なにより、相手によって質問の内容も距離感もすべて違います。これさえ押さえればインタビューはばっちり、なんてメソッドはないと思います。だからこそ、インタビューは楽しいのです。

text/倉本祐美加 photo/井上雅央

編集会議2019 SPRING の記事一覧

香取慎吾が描いた表紙画で話題 女性版『週刊文春』立ち上げの裏側
インタビューでは、不意をつく質問と相手に寄り添う質問、どちらが正解?(この記事です)
本の装丁はデザイナーと編集者、互いの領分に入り込める仕事
三崎から売れる雑誌、そして文化を。夫婦2人で営む出版社

おすすめの連載

特集・連載一覧をみる
広報会議Topへ戻る

無料で読める「本日の記事」を
メールでお届けします。

メールマガジンに登録する