自社でメディアを持つことで、企業としての意志表明の場が広がっている。ところがそのメッセージが批判され、予期せぬ"炎上"となる可能性もある。なかでもジェンダーにまつわる問題は社会全体が敏感になっており、注意が必要だ。
ここ数年、企業のウェブ動画やSNS、インターネットのキャンペーンにおいて「女性の描き方」が批判される例が後をたたない。2019年に入って、西武・そごうの新聞広告が炎上したのも記憶に新しい。女性の顔面に"パイ投げ"をしたビジュアルに、「女の時代、なんていらない?」「わたしは、私。」といったコピーを冠した内容だった。
筆者はこうした事例を「ジェンダー炎上」と名付けている。この記事では ❶炎上が起きる理由 ❷炎上防止の観点を入れた企画の立て方 ❸不幸にも炎上した場合の望ましい対応策について、事例に即して考える。
「悪意なし」でも炎上の危険性
アルバイトが悪ふざけをして製品・サービスを毀損させるような炎上事例と「ジェンダー炎上」で決定的に異なるのは、後者には悪意がないことだ。企業にとって広報、宣伝、マーケティングは経済行為であり、売上や好感度の向上といった効果を期待して行う。ジェンダー炎上の理由を探っていくと、広報・マーケティングの際に選ぶ言葉と文脈に行きつく。
筆者は「ジェンダーはビジネスの新教養である」と提言しており、損益計算書を読めたり、自社の株価に影響する要因を認識したりすることと同様に、今の時代はジェンダーに関する知識も教養のひとつとして身につけておくべきと考える。
続いて、最近起きたいくつかの炎上事例を分析してみよう。
働く女は、結局中身、オスである。
企業のオウンドメディアやSNS、広告において特に気をつけるべきなのは「上から目線の決めつけ」である。
3月のはじめ、東京メトロ表参道駅構内などに掲出された小学館の女性誌『Domani』の広告が批判を集めた。同誌は30代女性を想定読者とするファッション誌であり「ニッポンのワーママはかっこいい!」がキャッチフレーズだ。今回炎上したのは広告コピーの中でもサブにあたる「働く女は、結局中身、オスである。」という一文だ。
同誌の読者層であるキャリア女性は男性が多い職場で働いていたり「男性並み」の長時間労働をしていたりする。そのため当事者が「私は中身、男だから」と言うこともあるだろう。しかし、第三者、とりわけ女性の味方と思しきメディアが「働く女性はオス」と言ってしまうと、そこには「勝手な決めつけ」のニュアンスが色濃くなる。
この事例を報道したフジテレビ『とくダネ!』取材班の調査によれば、このコピーについて285人中74.4%が「なし」(否定的)と回答している。特筆すべきは男性も76.9%が「なし」と回答していることだ(女性は71.2%)。筆者は本件について3月5日、朝の同番組でスタジオ解説を行った。それに先立ち、アンケート結果を分析したところ「女性蔑視」「決めつけてほしくない」という意見が多く見られた …