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ビッグデータで防災が変わる

NHKスペシャル「震災ビッグデータ」は、いかにして生まれたか?

阿部博史(NHK 報道局報道番組センター 社会番組部 ディレクター)

今年、さまざまな分野で注目を浴びたビッグデータ。活用されるデータや活用意図はさまざまあるが、本レポートでは防災・減災の視点でデータを分析・加工しようと取り組む例を紹介する。

NHK阿部さん

処理し切れない情報に戸惑った

パソコンのカーソルでメニューを選ぶと、首都圏の地図の上に、光の点と線が浮かび上がる。あるものは高速で、あるものはゆっくりと、あるものは大量に動いていくのが分かる。点は人、移動が残像のように線で残り、高速のものには色がつく。2011年3月11日、その日の画面を早送りしていくと、朝のラッシュ時間を迎え、ビジネス活動が始まると活発に点や線が輝く。やがて14時46分のその瞬間を迎えると、高速に移動する光の線が激減する。

売上高震災前

福島県の企業活動 震災前後の比較地図上の黄色い棒グラフは売上高。震災前(2011・上)と震災後(2013)を比較すると、東京電力福島原子力発電所から20キロ圏内(沿岸付近)で企業活動が失われたことがわかる。

これは、日本放送協会(NHK)の阿部博史ディレクターが企業や研究者の協力を得て開発した「震災ビッグデータ」の分析結果の一つ。震災ビッグデータという言葉自体、過去には存在しなかったものだ。東日本大震災発生当時に記録された約1億8000万ものツイッター、数百万ものカーナビや携帯電話の位置情報などを分析すると、その日被災者が、日本中の人たちがどのような動きをしていたのかをリアルに再現することができる。一見意味のない数字の羅列に意味を与えてプログラムに落とし込み、地図に貼り付け、分かりやすく表示する。すると、一旦は避難した被災者が再び家族や知り合いを心配して浸水域に戻り、命を落としたことなどが明らかになった。震災から2年後の3月、この事実を放送したNHKスペシャル「震災ビッグデータ」シリーズの第1弾は大きな反響を得た。9月には被災地の企業活動復興の現実に迫った第2弾が放送されており、来春3月には第3弾が放送される予定だ。

震災当時、阿部さんは夜9時からのニュース番組「ニュースウォッチ9」のディレクターだった。次々と入ってくる大量の映像や情報の中、それらをいかに精査、取捨選択し、どのように伝えるべきか戸惑った。「緊急報道とはいえ、それこそ分かりやすく、伝えるべき情報を出す、いわば“プレゼン”の嵐だったのです」。玉石混合の情報を、いかに整理し伝えるべきだったのか。そんな疑問から、あの日のデータを分析したいという思いに駆られるようになった。大学院で天文学を学び、「宇宙から跳ね返ってきた大量の情報を解析する考えは、ビッグデータ活用そのもので元々関心があった」という阿部さん。震災から1年後の2012年9月、グーグル、ツイッター社らとともにワークショップを立ち上げた。

震災ビッグデータワークショップ

「震災ビッグデータワークショップ」は、ツイッター、グーグル、東北大学今村文彦教授、JCC、NHK、レスキューナウ、ホンダ、ゼンリンデータコムが有志で参加(上)。下は研究会の様子。

ワークショップ立ち上げ当初は、番組にしようとは考えていなかった。ただ、データを解析することができたら、何かが分かるのではないかと考えていた。さまざまなデータを保有する各企業に話を聞きに行くと、各社揃って「(当時のデータを)解析していない」「何も検証していない」との答え。そこで、社会貢献活動の一環としてデータを提供してもらえないか、と持ちかけた。

NHKを含む9社が協力し、9月から10月にかけて行われたワークショップには、500人以上が登録。パートナーとなった各社の提供データ(注)をもとに、会社員や研究者など50組150人以上が研究成果や開発したツールを発表した。

重ね合わせたデータが役立つ

もちろん、企業が持つデータは各社の財産。データ提供の説得には、半年から1年の時間を要した。「最初から全てのデータをとお願いした訳ではありません。たとえば、まず被災地のデータだけをいただき、それを他のデータと掛け合わせて『こんなことが分かりました』と見せる。日本中のデータが得られれば、実は復興のマップが描けるのではないでしょうか、と話を広げていく。そんな風に進めました」。1つの事例をもとに成果を証明して、より広いデータ、より深い、核心的なデータ提供してもらえるよう提案した。

ビッグデータは、ほとんどマッシュアップ(情報を重ね合わせること)ができるかどうかにかかっている、と阿部さんは言う。たとえば、津波の浸水被害のデータと、浸水域のエリアで発信されたツイッターの発言を抽出して重ねれば、状況はより具体的に分かる。カーナビだけでなく、時速30キロで動く携帯電話の位置情報データがあれば、それを車と判断し、統合することができる。これらをリアルタイムで見えるようにしておけば、携帯電話を持って歩いている人が浸水域にいれば、そこに人が生きていると判断して助けに行くことができるかもしれない。「震災ビッグデータという旗印のもと、そこに集まるデータをとにかく重ね合わせてマッシュアップしていく。すると、単独企業が発表できるものとは違う活用法が明らかになっていくはず。このプロジェクトのそもそもの狙いは、ここにありました」。

分析を進めるうち、そこで得た情報はやはり世の中に伝えるべきではないか、と阿部さんは考え始めた。それが、先のNHKスペシャルだった。「番組で伝えられることもあります。でも、何より『震災ビッグデータ』という言葉をもっと広めて活用を進め、もし次の災害がやってきたら、いかに救える命を救うことにつなげるかが重要です。ですから、番組後も省庁や政府関係機関をはじめ、さまざまな場所でプレゼンや講演をしています」。そのうちのいくつかからは、防災のために震災ビッグデータの活用を始めたいという申し出も受け始めている。

いま、活動は「復興ビッグデータプロジェクト」へと移りつつある。阿部さんの危機感は、震災3年後にある。「阪神淡路大震災の時も、復興特需と呼ばれたものが3年後にピークとなり、頭打ちになりました。逆に、人口減少は3年目くらいで底を打った。3年目は節目であり、今から有効な対策を打つことが必要だと考えています」。

(注)提供されたデータは、以下の通り。3月11日から1週間の朝日新聞記事/朝日新聞社提供、Google Trends/グーグル提供、東日本大震災直後のテレビ放送テキスト要約データ/JCC提供、3月11日から1週間のツイート/ツイッタージャパン提供、NHK総合テレビ大震災発災直後から24時間の放送音声書き起こし及び頻出ワードランキング/NHK提供、Hondaインターナビ通行実績マップデータ/本田技研工業提供、レスキューナウの鉄道運行情報・緊急情報・被害状況のまとめ情報/レスキューナウ提供、混雑統計データ/ゼンリンデータコム提供

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