新宿・歌舞伎町の6つのホストクラブを束ね、そのほかにもさまざまな事業を展開する、Smappa!Groupの会長、手塚マキ氏。ホストの接客と聞くと、お客を喜ばせる話術、売り上げによる歩合制、熾烈なランキング争い、一晩で数百万──など厳しくもきらびやかな世界が思い浮かぶ。しかし1月のある日、手塚氏が取材で語ったのは「食いっぱぐれなければいい」という売上至上主義のホスト界からは想像もできない、接客論もとい仕事論だった。
手塚流 接客のおきて
➊ 素直であれば食いっぱぐれることはない スタッフを育てるのはお客さま
➋ お客さまと共に創る「プロフェッショナルサービス」とは
➌ 見えない100万人よりも、手の届く目の前の人を
グループ初期の十数人に学んだ「素直であることの大切さ」
手塚マキ氏は、6つのホストクラブを束ね、バーや書店、介護事業と縦横無尽に事業を展開するSmappa!Group(スマッパグループ)の会長を務める。ホストクラブのような「接客が命」とも言える事業で、スタッフを育てあげるのは容易ではないはずだ。グループに共通する、接客の理念のようなものは存在するのか。「後輩にずっと言い続けてきたのは、『素直であること』です。不文律の文化としてグループに根付いていると思います」
「素直」であるとはどういうことか。「つまり、『驕らず、蔑まず』、品性を持つということです。たとえば店でナンバーワンになったホストがいたとして、『俺はナンバーワンだから』と驕り高ぶるのも、『いや、俺なんて全然』と自分のことを蔑むのでもない。等身大の自分であることを大切にしています。
品性を身に着けるために、後輩には「教養の強要」として読書や、映画鑑賞を勧めている。「歌舞伎町ブックセンター」のように本に触れられる環境を用意したり、ホストがボランティアとして歌舞伎町を清掃する「夜鳥の界」などを始めたりしたのも、その一環だ。
手塚氏が「素直であること」を重視しはじめたのは、20歳代後半でSmappa!Groupを立ち上げ、部下を持ったことがきっかけだった。それまではいちホストであった同氏が、十数人の部下を抱え、彼らを育て上げることの責任を自覚したのだ。
集まったスタッフの多くが、中学校にもろくに通っておらず、教育を受けていないように見えても不思議のない振る舞いばかりだった。
「当初は不良のたまり場同然で。ただ、とにかく素直な子たちだった。優しく、思いやりがあって、卑怯なことをする子もいませんでした。彼らには功利主義的な考えがなかったのでしょう」と手塚氏は振り返る。
「それはいわば、人としての素養です。接客の技術が未熟だったとしても、そういう人間にお客さまはつきます。実際にその光景をこれまで何度も目にしてきたので、『素直であれば食いっぱぐれることはないんだ』と実感しました。それがそのまま大きくなったのが、いまのSmappa!Groupです」
喧嘩や言い合いも教育の一部「スタッフを育てるのはお客さま」
とはいえ、素直さだけでは、接客は成り立たない。実際のところ、どのように後輩を育ててきたのか。
「入社したばかりの新人であっても、すぐにホールに出しています。それは僕自身が教えられることよりも、現場でお客さまから教わることのほうが、圧倒的に大きいためです。『不良のたまり場』だったので、最低限の社会的モラルを身に着けさせるための荒療治、と考えた結果でもあります」
しかし、未熟な状態でお客さまと接し、トラブルが生じる場合など、リスクもあるが、そこに恐れはないのだろうか …