1.はじめに
いうまでもなく、小売業と顧客の関係は重要である。「小売の輪は回る」という古い理論仮説があり、それは「小売はディスカウントで参入し、次第に百貨店のように高級化していき価格が高くなり、また安い価格でディスカウントする小売が参入してくる。そしてこれを繰り返して新たな業態が生まれる」という理論仮説である。しかしながら、新たにコンビニエンスストアが出てきてから、「利便性」の輪も出てきた。そして米国のホールフーズのように「健康」、そしてトレーダージョーズのように「顧客とのフレンドシップ」という輪も登場している。では、これからはどういう「輪」が重要になるのだろうか。またこれをどう探ることができるのだろうか。答えは、これらの輪を生み出す土台から探る以外にはない。そのために必要なのが伝統的に存在している方法である「顧客の声を聞くこと」だ。この方法を重視して、その声へのレスポンスをきちんと効果的に実施する仕組みを持っているのが九州・福岡に本拠地を置く、ハローデイである。負債過多で危うく倒産しかけたハローデイが再建をしえたのも、この「顧客の声」を聞き、きちんとレスポンスを行い続け、それを基に経営を行ったことによると言っても過言ではない(※1)。その仕組みづくりだけでも大変だが、さらなる進化を遂げるためには、普通に聞いても出てこない「顧客の声」をいかに聞くか、あるいは探るかが必要である。これは具体的には、顧客へのインサイト分析、つまり深層心理である潜在意識や無意識を探り出すことであり、これらについては、第2回の連載で詳述している。この方法によって取り出した重要ポイントの中には、店舗ファンの多くは店舗よりも従業員につくということだと第7回で述べてきた。
※1 加治敬通(2013)『「日本一働きたい会社」を目指す!』、PHP.
連載の最後となるこの号では、まず小売業の顧客接点について述べる。そして、その中でこれから重要な仕組みとなるO2Oとの関連について述べ、その枠組となる考え方として経験価値マネジメントを用いることを解説していく。