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価値創造プロモーションの実践

「10円はいいけど30円はだめ」な場合とは?消費者の「値上げ感度」を探って消費税アップに備える

<文>学習院大学経済学部教授 上田隆穂

1.消費税のアップはどう理解するか

消費税の8%化が来年度4月から本決まりとなり、消費税関連の記事が新聞や雑誌を賑わせている。消費税の問題は重要であるが、消費税以外の原料値上げ、円安の影響が同時に起こっており、どのくらいの価格アップが起こり、それが購買にどのような影響を与えるかが、実は最も大きな問題である。最近での物価変動は次の記述によく現れている。『総務省が9月27日に発表した8月の全国消費者物価指数(2010年=100)は、価格変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が100.4となり、前年同月比0.8%上昇した。前年を上回るのは3カ月連続で、上昇率は7月の0.7%から拡大。電気やガソリンの値上がりが続いているほか、パソコンなど教養娯楽用耐久財が0.1%上昇と1992年1月以来のプラスに転じたことが寄与した。教養娯楽用耐久財では、パソコンのデスクトップ型が24.4%上昇、ノート型が9.3%上昇となったほか、テレビの下落率が前月の5.3%から2.0%に縮小した。エアコンや冷蔵庫など家庭用耐久財は5.0%下落した』(時事ドットコム 【図解・経済】消費者物価指数の推移http://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_eco_cpiより。一部加筆)

出典 2013年9月28日讀賣新聞朝刊より

最近は、物価が上昇基調にあり、図1の消費者物価指数の推移のグラフは明確にそのことを示している。つまり、リーマンショックまで上昇基調だったが、その後、急落し、景気の徐々なる回復とともに元通りになって推移したが、円安の影響を大きく受けて、2013年の途中から急に上昇傾向を示している。また2013年の10月にも牛乳、日本酒、ゴマ油、外食に関して値上げが行われた。

出典 Hermann Simon (1989), Price Management, North-Holland. を大幅に修正

この上さらに、消費税がアップする時、どういう事態になることが想定されるだろうか。ここで一つのブランドに関して、グーテンベルグ仮説という考え方を当てはめて考えてみる。図2を見られたい。これはある商品に関する価格と売上数量との関係である。価格が動いても売り上げに反応しない価格領域を低価格感度領域と呼んでおこう。この領域は、この商品はこのくらいの価格だという値頃価格(専門用語は内的参照価格という)の周辺に存在すると言われている。消費税増分3%が、この領域内に収まればそれほどの売上数量の変化はない。かつての外食産業界のあるチェーンで、メニュー品目一律30円の値上げを敢行したところ、来店客が激減したことがあった。これにこりたこのレストランチェーンは次の機会において、メニュー品目一律10円の値上げをおそるおそるやったことがある。この時、顧客は問題なく受け入れたのである。つまり、30円値上げであれば、図2の低価格感度領域をはみ出し、売上数量は急降下する。しかし、10円値上げであれば、価格は低価格感度領域内に留まり、来店客数の減少は見られなかったということになる。従って、ポイントは原料高・円安などによる値上げと消費税のアップがこの低価格感度領域をはみ出すのか、はみ出さないのかということになる。

この話を、商品カテゴリーに置き換えても、ある程度同様の議論はできる。あるカテゴリーの大体の内的参照価格があり、消費税の上昇で、この低価格感度領域を超えた場合に商品カテゴリー間のスイッチが起こりうる。つまり、そのカテゴリーの売上高は減少する。例えば後述するように、リーマンショック前夜の値上がり時代、売れにくくなったのは、必需品でない選択的消費の性格を持つカップラーメンであった。このような商品カテゴリーがどう生き残るのかが重要な課題であろう。

このグーテンベルグ仮説に従えば、徐々に消費税を上げて、毎年、低価格感度領域内で動かした内的参照価格に慣れてもらうという形を採りつつ、内的参照価格をシフトさせていくのはいい。従って消費税を少しずつ、段階的に上げるのが、実施コストを考慮しなければ、内的参照価格を一端落ち着かせるという効果があり、良いのである。

ただ日本においては、消費者の景況感がアベノミクス効果でそれほど悪くない。従って消費税だけであれば、低価格感度領域を超えての需要減は起きても軽めであろう。問題は、円安・原料高の転嫁が同時に、どの程度起こりうるか。両者が合計されてアップした価格である場合、低価格感度領域から外れるかどうかが重要なポイントなのである。右へ外れれば、需要は急減する。つまり売れなくなってしまうのである。

2.商品カテゴリー間における競争

前述のように、急な値上げが全体にわたって起きるとブランド間だけでなく、カテゴリー間の競争も起きる。このカテゴリー間の動きをリーマンショック前夜の値上がりで見てみよう(日経ビジネス2008年9月22号を参考に計算)。チーズを見ると、物価指数は113.8であり、前年比13.8ポイント上昇している。これを用いて名目支出を割った値が消費指数であり、89.2である。つまり、実質的には、消費量を減らして買い控えたか、より低価格のブランドに移ったか、さもなければ、違うカテゴリーに移ったかである。しかしながら、もとの名目支出を見ると1.01であり、支出金額的には変化がないのである。同様に実際に物価指数は大幅に上がっているが、名目支出ベースで、食パンは1.01、菓子パンは0.99、卵は1.02と支出金額的には変化がない。これに比べてより値上がり幅の大きかったガソリンは1.21、スパゲティは1.15、食用油は1.08と、消費者は名目支出を上げざるを得なかった。一般的な所得は、値上げに対して、上がるわけでもなく、客単価も変化がないとすると、カテゴリーによって支出が増えた分は、どこかのカテゴリーで調整がなされる可能性が高い。この調整されたカテゴリーが前述のカップ麺であった。物価指数は前年比120.1であり、名目支出は0.88となっている。つまり支出金額も減っており、値上げ分を考慮した実質消費の消費指数は73.1とかなり縮小してしまっている。つまりカップ麺を主力とするメーカーは大いに苦しんだわけである。これからの消費税のアップを控え、このようなカテゴリーは大いに対策を練る必要がある。また実質の消費支出は軒並みダウンするわけであるから、消費税がいくらアップすれば危険域に入るか調査は必須であると考えるべきであろう。

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