佐藤カズー(TBWA\HAKUHODO)
広告の現場から距離を置き、2022年から2024年3月まで地球環境学の修士課程に進んでいるTBWA\HAKUHODOの佐藤カズーさん。地球環境の保護が喫緊の課題となったこれからの時代におけるクリエイティブの役割を模索している。
「20年後の地球はどうなっているのだろう」
――なぜ一度仕事から離れ、大学院に進まれたのでしょうか。
広告会社に入社して20年ほど、企業の経済的な課題をクリエイティブで解決する仕事をしてきました。売上を増やしたい、競合ブランドよりもイメージを良くしたい、そうしたことに取り組む中で、10年ほど前から、社会的な課題が増えていきました。ダイバーシティやジェンダーといったものですね。そして最近になり、私に娘が生まれまして。娘と過ごしている中でふと、この子が20歳になった時、この地球はどうなってしまっているんだろう?と思ったんです。これまで養ってきたクリエイティビティを通じた課題解決の力を、今度は地球のために活かすステージに来たのだと感じました。
でも環境問題に取り組むには、生半可な知識でやってしまっては危険です。環境問題はしばしば複雑に関連し合っており、ひとつの問題を解決するために他の問題が発生することがありますし、特定の環境対策が実際には生態系に悪影響を及ぼし、問題を悪化させることもあるでしょう。科学的な根拠を軸に、深い洞察を持って臨まないと、クライアント企業がバッシングを浴びる可能性も高い。このタイミングで一度本腰を入れて学ぼうと修士課程に進むことにしました。
大学院では文理横断で幅広く学んでいます。研究テーマは、クリエイティビティとサステナビリティをかけ合わせることで、どう地球にインパクトを起こせるか。地球環境だけでなく、自分の研究も時間がなくなってきたので焦っています(笑)。
――昨今の日本の企業のSDGsへの取り組みをどう見ていますか。
経済思想家の斎藤幸平さんが、『人新世の「資本論」』( 集英社新書、2020年)で「SDGsは『大衆のアヘン』である」と説かれていました。企業や自治体など主体によってばらつきはありますが、SDGsが環境問題に対する免罪符のような存在になっていることも否めません。いくら良いメッセージを発信していても、廃棄を前提とした事業展開をしていたり、役員リストがほぼ男性だったり。今はそうした企業の情報を簡単に調べられるので、意識の高い生活者や投資家にはガラス張りのように透けて見えると思います。言葉と行動が伴っていないと、「SDGsウォッシング」と捉えられてしまう。企業にとってもマイナスとなってしまいますよね。
企業に求められる「誠実」と「楽観」
――その中で、企業がすべき行動は。
スタンスとして重要なのは、「誠実さ」と「楽観さ(optimism)」だと思っています。野心的なサステナビリティのゴールを定めたとして、仮にその過程が上手く進んでいなくても、自社の状況を正直に発信すること。そういった企業の誠実さが最終的に、生活者に選ばれることに繋がると思います。
また楽観的に、ポジティブに取り組むことも非常に重要です。サステナビリティへの取り組みは、日本だとどうしても我慢と結び付き、ネガティブなイメージを...