TOOL
「逆再生、祝祭、手拍子」の函
(旧石井県令企画展「石川優太 絵画全貌」逆再生、祝祭、手拍子)
- AD+D/鈴木健一
- アーティスト/石川優太
岩手県盛岡市にある景観重要建造物「旧石井県令邸」で10月5日から13日にかけて、地元で活動する油絵画家・石川優太さんの作品を約50点集めた企画展が開催された。この展覧会を告知するDMとして制作されたのが「『逆再生、祝祭、手拍子』の函」だ。
銀色の箔で展覧会名が印字された箱を開けるとエキゾチックな香りが漂い、むきだしの木の欠片が。香りは古来よりエジプトで祈りの際に使用されたというフランキンセンスを中心に、作品のイメージに合う香りを調香し、木に染み込ませた。
「流木は久慈の小袖海岸で採取しました。僕の作品制作のテーマに共通するのが“時のうつろい”です。波に揺られ、陽に照らされて造形が変わる流木は展覧会を象徴するものです」(石川さん)。
展覧会の世界観をそのまま閉じ込めて届けることができないかと考え、象徴である流木をそのまま“キーオブジェクト”としてDMにしようと提案したのはアートディレクターの鈴木健一さん。石川さんと同じ美術系の高校の先輩後輩の間柄で、このDMと企画展のディレクション全般を手がけた。
同封した3枚のカードは石川さんの近作をもとに、鈴木さんが“時のうつろい”を感じるようにそれぞれ違うアプローチで手を加えた。
「『I AM OK』という作品がベースのくすんだ色味のカードは、骨董市で拾ったような薄汚れた絵はがきのイメージ。マッチ箱サイズのカードは『中津川』という作品を古い時代の印刷機で刷ったような独特の力強さを再現しようと、線数を下げて印刷しました。緑色のカードは企画展のタイトルにもなっている作品『逆再生、祝祭、手拍子』をポラロイドで撮影したかのように仕立てています」(鈴木さん)。
2人によると、重視したのはDMでありながら「人の手による生々しさ」をそのまま箱詰めにしたようなツールだ。会場ではこのDMを箱ごと真空パックし、シリアルナンバーを付けて販売した。「DM自体もアートの一部です。ただ絵画を並べただけではない、着眼点の多様性もある展覧会であることが伝わっていたら嬉しいです」(石川さん)。
BOOK
町田康(文)、寺門孝之(絵)『東山道エンジェル紀行』
(左右社)
- 装丁/秋山伸+宮原慶子
- 印刷+製本/チクチク・ラボラトリ― by edition.nord
9月15日、小説家の町田康さんと画家の寺門孝之さんによる『東山道エンジェル紀行』が刊行された。
当て所もなく山野や町を歩き進める「追放者たる俺」。それを付かず離れずの距離感で監視する存在、「案内侍」と空を旋回する「軽発機」。「泣き女」「人虎」「水中舞踏家」などに出会いながらも不毛な旅を続ける「俺」の行く末やいかに──。
本書のデザインは秋山伸さんによるものだ。ネオンピンクのカバーをめくると、一回り小さいピンク色の冊子が。