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「唯一無二」のブランドをつくる DMを通じた体験価値の設計

河中裕哉×吉柳さおり

コロナ禍で消費者との接点が変化する今。プランニング、クリエイティブの両面から体験価値の設計の重要性が増している。デジタルコミュニケーションだけでなく、アナログな紙メディアの価値が見直される側面もあるといえるだろう。第35回全日本DM 大賞審査委員を務めるADK マーケティング・ソリューションズの河中裕哉さんと、マーケティング・コミュニケーション全般に詳しいベクトルの吉柳さおりさんが語る。

EC合戦の中でブランディングが重要に

──コロナ禍での消費、コミュニケーションの変化として感じていることは。

河中:2019年から全日本DM大賞の審査に参加していますが、この1年、コロナ禍で消費者との接点のつくり方が大きく変わりました。セールスプロモーションの現場では外出自粛の影響もあり、リアル店舗での買い物がプレミアムな体験になっていますよね。先日、地元のホームセンターに行ったらすごく混雑していて、巣ごもりに欠かせない生活雑貨も飛ぶように売れていた。誰もがリアルでの体験そのものに飢えているんだなと思いました。

吉柳:私自身、ベクトルグループでD2C事業やダイレクトマーケティングに携わる機会があるのですが、コロナ禍ではそういった“体験価値”の在り方がずいぶん変わってきていると思います。スマートフォン経由で得る情報量が多くなることはもちろん、在宅が増えたことでメディア接触の方法も変わりつつありますよね。

河中:そういった環境下で、DM(ダイレクトメール)の役割がどのように変わってきたと思いますか?

吉柳:在宅でデジタルでの情報取得が増えたぶん、手触りのある紙メディアのありがたみを感じている人も多いのではないかと思いますね。私も家にいることが増えたので、以前よりも郵便物をきちんと開封して目を通すようになりました。

河中:デジタルといえばECサイトも増えましたが、ECを通じてブランドの個性を出すのってすごく難しい。CPA(Cost Per Action)を重視すると、どのサイトも横並びの設計になってしまって顧客に商品の魅力やストーリーが伝わらない、と悩んでいる企業も多いようです。大手ECモールのように見た目が平準化されてしまうなら、むしろ小さい会社が熱量をもって設計したサイトの方がブランドストーリーを感じられて効果的ということもある。どんなに組織的にA/Bテストを経たサイトでも、得られる効果に限界があるなと思いました。これはDMも同様だと思います。

吉柳:OMO(Online Merges with Offline)が浸透するなか、店頭施策だけでは売れないしECのインフラを構えたからって売れるわけではない、という難しさがありますよね。特にEC合戦のなかで、ブランディングの重要性というものが際立ってきました。私はPRやマーケティングを専門としていますが、広告とPRの境目もますますなくなっています。かつてはメディアやWebを通じた話題化がミッションでしたが、消費者にプロダクトを見つけてもらって語ってもらい、その広がりをメディアが取り上げる構図をつくり出せるか、という形に変わってきたという側面もありますね。そのためにもブランディングが重要です。

河中:そのとおりですね。最近ではメールで届くニュースレターについて相談を受けることも増えましたが、やはり優れたブランドのメッセージは強い。シンプルなメールマガジンひとつとっても世界観があります。それはリアルのDMも同じで、「DMだからこうあるべき」という発想から脱却して、ゼロから世界観づくりを考えてみる必要があるのかなと感じます。

唯一無二の個性を生み出すDMを

──最近、印象に残っているDMの事例はありますか

吉柳:私はオンリーワンの、唯一無二の個性を生み出せるようなDMに関心があります。いち消費者として最近面白かったのが、とある化粧品ブランドのリップスティックのキャンペーン。アンケートに答えると、回答内容に応じて適した色のアイテムが全員に届くという企画でした。しかも自分が回答した今の気持ちの言葉のハッシュタグが印字されたカードが同封されているんです。パッケージもシンプルで、いかにも商品サンプリングという佇まいでもない。まさに「私のために届けられたもの」という気持ちになりました。つい他の色も欲しくなるので、店頭誘引施策にもなっています。

河中:デジタルで参加して、リアルで受け取れるというのはすごくいい体験ですよね。

吉柳:そうなんです。実際にInstagramなどでもシェアしている人が多くて、つい語りたくなる。ある意味、新しい形のプロダクト付きDMだと思いました。しかもアンケートに答えてから、それほど時間を置かずに届いたのも好印象で。パッケージを開けるときのワクワク感も含めて、これこそ「あなただけに」という唯一無二の存在になるブランド体験だと思います。

河中:いいアイデアですよね。絶対に人に見せたくなるし、DMがこういう機能を持つことができたら強いと思います。

吉柳:先ほど、CPA重視の施策が行き詰まっているという話がありましたが、こういった状況下で力を発揮してくれるのがクリエイティブアイデア。ブランドが持っているメッセージやストーリーをいかに届けるか。そして、ストーリーを感じる気持ちと態度をどう形成するか。そのために受け取る側のタイミングやインサイトを捉え、シーズナルな要素を取り入れるのも重要です。DMというと既存顧客のLTV向上を目的とするケースが多いと思うのですが、こうしたクリエイティブの力を駆使すれば新規顧客の獲得にもつながる。有意義な顧客体験はそのくらいのパワーがあると実感しました(図1)。

図1/DMを通じた体験価値の設計

吉柳さん作成

地方にこそ面白いアイデアがある

河中:ものをつくっている当事者が、自らの熱量をダイレクトに伝えようとするのはとても健全なことですからね。大手広告会社発でなくとも、クオリティの高いDMが生まれる現場がたくさんあると思います。例えば、昨年の審査でとても印象に残っているのが、石川県にある大衆食堂「味一番」のDM。コストの制約があるなかで、人力でOne to Oneマーケティングを実現しようという熱意が感じられました。

吉柳:地方にこそ面白いアイデアがありそうですし、まさに“クリエイティブ・ダイバーシティ”の実現ですね。AIやCRMツールなどのテクノロジーを活用するのも必要ですが、それらを凌駕する可能性のあるオンリーワンのDMのクリエイティブの開発にぜひ挑戦してほしいと思います。

河中:『ブレーン』読者である地方の広告会社や制作会社の皆さんも、DMなど顧客接点の設計に関わるケースも多いはず。熱量の高い作品を送っていただきたいですね。

吉柳:リアルで手触りのあるものを郵送で送るというDMの手法は、デジタルネイティブの世代に新鮮に捉えられる可能性があるという点でも期待が大きいと思います。消費者はターゲティング広告に追いかけられることに疲れているので、手づくり感のあるパーソナルコミュニケーションは歓迎されるはず。そのためにブランドの一番優れている部分をどう伝え、クリエイティブに変換していくか。そういう視点がこれから必要とされるのではないでしょうか。

ADKマーケティング・ソリューションズ
ダイレクトビジネスセンター 統合プランニングユニット データクリエイティブレボ クリエイティブ・ディレクター
河中裕哉(かわなか・ゆうや)

広告キャンペーン、パッケージ、製品開発、コンテンツデザインなど幅広い分野でコミュニケーションディレクションを行う。2017年頃からダイレクトマーケティング領域のフルファネルコミュニケーションプランニング、広告制作、会員施策などに注力。

プラチナム 代表取締役
ベクトルグループ 取締役副社長
吉柳さおり(きりゅう・さおり)

大学在学中にベクトルにアルバイトとして入社し、創業に参画。2002年に同社取締役に就任。2004年にPR事業会社プラチナムを設立し代表取締役に就任。ベクトルグループは、グループ45社、アジアに14拠点を持ち、PR事業、デジタル・ダイレクトマーケティング事業、メディア事業など、さまざまなコミュニケーション事業を展開している。

    第35回全日本DM大賞作品募集中!(締切10/31)

    戦術性・クリエイティブ・実施効果などにおいて優れたダイレクトメール(DM)を顕彰する「全日本DM大賞」がDM作品を募集中だ。応募締切は10月31日。表現面だけでなく、ほかのメディアとの組み合わせで相乗効果をもたらしたDM、レスポンス獲得で実施効果を収めたものなど多角的に評価する。応募用紙や過去の作品集は公式サイト(https://www.dm-award.jp)にてダウンロードできる。

    お問い合わせ

    全日本DM大賞事務局(株式会社宣伝会議内)
    TEL 03-3475-7668
    E-mail info@dm-award.jp
    https://www.dm-award.jp

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