渋谷区神宮前にオフィスを構える制作会社 ハドル。数年前からリモートワークの導入を始め、現在はワークスペースの変革に着手。この10月には、地域の児童向けに絵本を揃えた私設図書館「神宮前文庫」を開設するなど、これからの時代のクリエイターの働き方とオフィスの在り方を模索している。
新たな刺激が生まれる開かれたオフィスに
広告、映像、Webサイトなど幅広い制作を手がけるハドル。スタッフ数は7人と小規模ながら、クリエイティブディレクター、アートディレクター、コピーライターの他に、週刊誌の表紙を手がけるフォトグラファーやイラストレーターも在籍。制作業務を一気通貫で行える総合力とクライアントの課題に寄り添い、ナショナルクライアントを中心に多種多様なクリエイティブを提案している。そんな同社がここ数年進めてきたのが、ワークスタイルの変革だ。
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、テレワークが推奨される前から、全員にノートPCを貸与し、クラウドストレージを導入するなど、場所を問わず働けるための設備を整えてきた。
「仕事を育児や介護と両立している社員もいる中で、我々のゴールはクライアントの満足であると考えたときに、一人ひとりのライフスタイルを犠牲にしてまで同じ空間に集まって働く必要はないのでは、という思いがありました」と話すのは、代表取締役 酒田健典さん。「テレワークを導入すれば、オフィスの役割も変わります。そこで、オフィス改装のコンセプトとしたのが、“開かれた場所”。固定席を置かず、必要に応じて出社する。外部の人も使え、緩やかな繋がりが生まれることで、仕事にも還元されるような空間です」。
実は、ハドルのオフィスがあるのは、約20年前に児童文学作家の前川康男さんが私設文庫を開いていた場所。そんな背景もヒントになり、9月30日に地域の児童向けに絵本を集めた私設文庫「神宮前文庫」をオフィス内に開設した。
「情報入手の手段としてスマホや動画が普及する一方、広告制作に携わる者として絵や写真をじっくり観て、感じたり、考えたりする機会が減っているのは寂しい気がしていました。そこで自分たちが仕事として向き合っている『観る』ことの楽しさや感動を、子どもたちと分かち合えるような場をつくりたいと考えました」とアートディレクター 和田美音さん。
せっかく取り組むなら本格的にと、民間資格である絵本専門士や絵本の専門書店の監修を受けることに。制作会社らしくデザイン性の高い絵本をラインアップし、将来ここからデザイナーやイラストレーターになりたいと考える子どもが増えてほしいという願いを込めた。
仕事をやり切れる、のがテレワーク
「神宮前文庫」を開設したハドルでは、テレワークを積極的に取り入れ、働き方改革をますます推進していく計画だ。「とにかく時間をかけることで作品のクオリティが高まる、という考えにはあまり賛同しません。できる限り規則正しく、自分の働きやすい場所で働きながら、普通の人と同じ目線で生活することが、生活者目線の広告づくりにもつながるのではないでしょうか」と酒田さん。
そして、「働き方が変わることは決して自分を楽にすることではない。手がけた仕事を最後まで自分でやり切ることにもつながっています」と和田さんは話す。「子育てをしていると、送り迎えだったり、ごはんの準備だったり、家庭のことに時間を取られてしまいます。それでも仕事に妥協せずにいられるのは、今の働き方だからだと心の底から思います。広告制作では、企業や商品の課題を細部まで把握した上で、デザインを考え、形にしていかなければなりません。オフィスでしか働けなかったり、誰かに引き継がないと間に合わないような環境では、自分で最後までやり切って、ものづくりの達成感を味わうことも難しいでしょう。臨機応変な時間の使い方ができるテレワークだからこそ、こだわりをデザインに活かしながら、自身の成長につながる仕事ができていると実感しています」。
「観る」楽しさを広げる会社に
では「神宮前文庫」の開設は、ハドルのクリエイティブにどのような影響を及ぼすのか。「絵本を通じて観る楽しさに改めて触れることで、デザインに対する思いが改めて強くなりました。素敵、楽しい、可愛い、という純粋な感動を感じてもらえるような広告制作に取り組んでいきたいと思います」(和田さん)。もちろん、クライアントの課題に寄り添う制作会社としての使命も、仕事をやり切れるテレワークの強みを活かしてさらに全うしていく。「これからもクライアントが相談したいと思ってもらえる存在でありたい、と思っています。コストも納期も一つひとつに思いやりを持って対応して、生み出されたものが最後に良かったねと言ってもらえれば嬉しいですね」とアートディレクター 牛尾敬子さん。
「オフィスを改装し、働き方も変わり、新しい刺激を受ける機会が増えました。絵本や子ども、そして文庫から生まれる繋がりから、自分たちの視点を広げていきたい。そして、クライアントのどんな相談にも、応えられる。そんなチームになりたいですね」(酒田さん)。
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ハドル
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