タサン志麻さんにお会いしたいと思ったのは、NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』を観てのこと。さっぱりしていて温かい、飾らない風情がキラキラしている──魅力的なキャラクターに惹かれた。今に至る経緯も含め、いろいろなお話を伺った。

“伝説の家政婦”タサン志麻さん。

志麻さんがつくった料理。一般の人の家を訪れ、たった3時間でそこにある材料を使って10品以上の料理をつくる。

志麻さんの自宅でのホームパーティの様子。
本当にやりたいことがわからない
「幼い頃から、母が料理している姿を楽しそうと感じていました」。エクボが添えられた笑みを浮かべながら、志麻さんはそう語り始めた。調理師学校に進んでフランス料理を学んだ後、渡仏して三つ星レストランで修行──この時、フランスの家庭料理の豊かさに触れたことが、いずれ家政婦という途を選ぶ起点となった。「少し敷居が高いレストランとは違う、家庭ならではの温かい空気。シンプルだけどおいしい料理を囲んで、家族が会話と食事を楽しんでいるのを素敵と感じました」。
その後、帰国してフレンチレストランに──忙殺されながら、フランスの歴史や文学、音楽、映画など、幅も奥行きもあるフランスの文化をもっと知りたいと、寝る間も惜しんで勉強した。知れば知るほど、フランスの家庭料理への憧れが高まっていったという。一方で、才を認められながら「本当にやりたいことは他にあるのに、それが何かわからない」という悩みが続いたという。
そしてそれが高じてシェフ業を離れることに──そこから紆余曲折を経て、家政婦という仕事に行き着き、2015年に家事代行マッチングサービスに登録したという(2018年に退会)。最初は掃除の依頼が多くて戸惑ったが、そのうち「フランスの家庭料理がおいしいと言ってくれる方が増えてきたのです」。
今でこそ、予約のとれない家政婦として名を馳せている志麻さんだが、その道程を悩みながら歩んできたことに、まずは驚かされた。一直線に邁進してきたと勝手に思い込んでいたからだ。ただ一連の話を聞くと、志麻さんの眼差しは、料理から文化へ、そして文化を形づくっている人々の日常へ、さらに豊かさのありかは日常の周辺にあることへと、ぐんぐん広がっている。その時その時の自分の興味について、真正面から深く取り組んでいる。
「やりたいことを見つけなさい」とはよく言うけれど、誰もが簡単にできることではないと、常日頃から思っていた。が...