電子書籍では得られない紙の本の魅力のひとつが、手触りや質感だ。ブックジャケットをつけられるのも本ならではの楽しさ。このコーナーではさまざまな質感を持つ竹尾のファインペーパーを使用し、そこに多彩な印刷加工技術を掛けあわせることで、触って感じる新しいブックジャケットを提案していく。
紙の質感への興味を引き出す
割れた陶磁器を修復し、金粉で仕上げる伝統的な技法「金継ぎ」。このブックジャケット上には、この金継ぎが金の箔押しを使って表現されている。その意図について、Werkbund のアートディレクター 古屋貴広さんは次のように説明する。
「金継ぎは、単なる修繕のための手法ではありません。欠けた部分があることによって、逆に器本来の魅力の再発見に繋がったり、価値をさらに高めることがあるのがその面白さです。同じように、紙でも箔押しを施し、あえて欠けた部分を作ることによって、紙の質感への興味が引き出されるのではないかと考えて制作しました」。
そもそも、紙のよさを伝えるためには、そのよさを言葉で説明しても効果的ではないと考えたという。「紙の説明をされて、その場では覚えたとしても、すぐに忘れてしまったら、それは伝わっていることにはならないですよね。それよりも、普段使ってもらう中で、手触りのよさに気づいたり、無意識に感覚として刷り込まれていくことが、本当に紙のよさを伝えることになると考えました」。
金継ぎの部分に注目させることで、同時に紙地の部分にも目が行く。また、ブックジャケットとして使う中で、金箔の部分と紙地の部分の手触りの違いが感じ取ってもらえるのではと考えた。
金継ぎを模した部分のデザインは、実際に紙を破って並べて制作した。よく見ると、継がれている部分に紙の繊維の毛羽立ちも再現されている。また、金箔は、一般的な艶ありのものと艶なしと両方試したが、「艶ありは上に貼っているように見えるが、艶なしは中に埋め込んでいる印象になり、より金継ぎに近い」という理由で後者をセレクトしている。一見地味なようだが、さまざまな計算のもとに作られたデザインになっている。
今月使った紙:ジャンフェルト
細かな染色繊維がブレンドされたファインペーパー。横方向のレイドと縦方向のフェルト調の模様が、伝統的で落ち着いた印象を与えます。すっきりとした明るさの「白」が加わり、淡色から濃色までを備えた14色のカラーラインナップに生まれ変わりました。