
バドワイザーは例年とは内容を変え、創始者の苦難と成功への道を語るCM「Born to the Hard Way」をオンエアした。
2月6日、今年もスポーツの祭典「スーパーボウル」がやってきた。試合は、ニューイングランド・ペイトリオッツの逆転勝ちという、息を飲む面白い試合だったが、ゲーム以上に期待されていたスーパーボウルCMは、全般的に低調。楽しく面白いイベントであるはずのスーパーボウルにも今、米国人の60%が満足していない、暗く、不吉なトランプ新政権への非難が顔を出していた。
トランプ政権後、政治色が濃くなったスーパーボウルCM
トランプ政権の誕生以来、米国には"あちら側vsこちら側"といった国民感情が台頭している。トランプ支持派と反トランプ派である。白と黒ほど違う考え方を持った二派が、米国という国をまっぷたつに引き裂いている。
トランプを応援したのは、"Rust Belt"と呼ばれる錆びついた古い工場地帯が広がる南部、中西部の州に住む人たちだ。彼らは、トランプが選挙運動の演説中に見せた人種差別、偏見、女性蔑視を見て、その中に自分たちと同じ"人間"を見つけた。「君たちの仕事は中国に取られた。それを取り返してあげる」とトランプは豪語した。彼らは政治家の中に、初めて自分たちの本当のニーズのわかる人が登場した、と感じたのだ。
こうした消費者の心理状態と密接な関係を持つブランドも、この動きに無関心ではいられない。ブランドも"こちら側、あちら側"といった立場をはっきり示さない限り、両方の消費者にそっぽを向かれる。そうした打算とは別に、自身がトランプの政策に反対する広告主も少なくない。
こうした社会的ムードの中で行われた2017年のスーパーボウルのCMには、政治色が色濃く出ても不思議ではなかった。例えば、毎年クライズデール種の馬と子犬を登場させて視聴者の人気投票で第1位を獲っているバドワイザーの今年のCMは、ドイツの移民として米国に渡ってきたバドワイザーの創始者の苦難と成功への道を語る「Born the Hard Way」という重厚な感じのCMに変貌していた。
バド愛好家の逆鱗に触れたCM
アドルファス・ブッシュ(Adolphus Busch)は1857年、ドイツから新世界での成功を夢見て米国に渡ってきた。ヨーロッパからの移民に冷たい態度で接するアメリカ人。「Go Home!」と言われながら、自分の夢を追求するブッシュ。伝統のあるドイツビール以上のビールをこの土地で作るのだ。研究に研究を続けた後、彼は叔父のアンハイザーに新しい会社の話を持ちかけた。そして、ついに「アンハイザー・ブッシュ」というビール会社が誕生した。
CMは、放送日前にYouTubeで流されたが、登場すると同時にバドワイザービールのボイコット運動が立ち上がった。トランプが中近東7カ国からの旅行者を直には米国内に入れないようにするという大統領命令を発した直後だったこともあり、「政治的すぎる」「トランプ非難だ」。「バドはボイコットしよう」などという声が上がった。広告主は「このCMはトランプが大統領になる前に制作されたもので、政治的な意図ではない」と抗弁している。が、まもなくこのボイコットの理由が判明した。
バドバイザーが最も売れている州と、トランプが勝った州を比較してみると、バド愛好家の多い13の州はトランプが全て勝っていた。「バドを飲まないミレニアルの心をつかもうと作った広告が、結果的には本当のバド愛好家の逆鱗に触れてしまったのだろう」と、メディアポストの記者スコット・ギルアムは言う。
3年前のCMを再度オンエア
コカ・コーラも、トランプの移民対策に反旗を翻すCMだと考えられている。2014年のスーパーボウル用に制作した「America the Beautiful」を再びオンエアした。CMは、さまざまな国からきた人たちが、自国語で米国の国家を歌う。そこにはイスラム教の人もクリスチャンも、仏教信者もいる。肌の色も違う人たちが、心を込めて国家を歌う。米国が、さまざまな移民で構成されていることをビジュアルに示す感動的なCMだ。

さまざまな人種が、さまざまな母国語で米国の国家を歌うコカ・コーラ「America the Beautiful」
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