毎年、クリスマスの時期になると、アルコール飲料の広告が多くなるのは、米国だけのトレンドではないだろう。友人同士や会社でのパーティ、家族揃ってのディナーなど、消費者がアルコールに接するチャンスが多くなるからだ。その消費量だけでなく、クリスマスプレゼント、またはパーティやディナーなどの招待に持っていく贈り物として、アルコール飲料が選ばれることも多い。アルコール飲料のマーケターにとっては、アルコール商品を買う二重三重の購買動機が生じる、ありがたい季節なのである。特に2016年は、8000万人という大団塊であるミレニアル(18~35才)の多くが、アルコール飲料の消費を許される年齢になっていることも、アルコール飲料の広告を増やしている。
アルコール広告と消費者の関係
とはいえ、米国人のアルコール摂取量は、過去40年間、横ばい状態であることが報告されている。2015年、テキサス州立大学広告学部の教授ゲリー・ウイルコックスの「米国のアルコール広告と消費者の関係」というレポートによると、1971年から2011年の40年間に、アルコール広告の量は400倍以上に増えているが、米国人のアルコール消費量はほとんど変わってない。「このレポートだけでなく、過去に行われたリサーチの結果を見ても、広告と販売の関係はほとんどなく、あったとしても弱いものだ」とレポートは報告している。
米国人のアルコール消費量が広告費の上昇に関係なく横ばいを示している理由の一つは、飲酒運転を含むアルコール規制などが関係しているようだ。
いくら多くの広告を出稿しても、米国の消費者のアルコール消費量は上がらないという事実がわかっているのに、なぜアルコール業界のマーケターたちは広告を打ち続けるのか。それは「ブランド・プレファランス(ブランドの好み)を構築するため」と、レポートは報告している。特にブランドに関してはなかなか難しいミレニアルたちに、「バーやレストランで、『グレイグース!』と名指しでドリンクを注文させるためには、彼らの心や関心をつかまえる広告を出稿し続ける必要があるのだ」と、ウィルコックス教授はレポートの中で語っている。
ミレニアル消費者の琴線
米国のアルコール広告のメインターゲットが、8000万人の大団塊ミレニアルであることは言うまでもない。ただ、この若いグループは、彼らの親であるベビーブーマーが消費者としてマーケットに入ってきた時のように、一つの大きなコホート(経験を共にする群れ)として捉えることができない。多人種、多文化、多宗教、多嗜好を持つミレニアル消費者の全てに通用するアプローチはないのである。そこで、各アルコール会社は、いろいろなリサーチ会社やメディア会社を使って、ミレニアル消費者をつかまえる手がかりを模索している。
そんな中で、ミレニアルたちの心の中に潜むいくつかの琴線に触れるテレビCMキャンペーンがあるが、2016年のアルコール広告には、ミレニアルにとって重要なあるテーマが登場している。「政治」である。
以下に紹介するCMは、『AdForum』や広告専門誌『Adweek』『AdAge』『Campaign』などが秀作として推薦しているミレニアル向けアルコールCM 4つである。
ジョニー•ウォーカー「This Land」
大統領選挙日直前に発表されたのはジョニー・ウォーカーのCM(01)。「キープ・ウォーキング」キャンペーンの一つとして作られたものだが、このCMでは米国のフォークシンガー、ウディー・ガスリーの「This Land is Your Land」の歌詞を声優ロメル・モリナが朗読している。映像には、米国各地で働くさまざまな職業の人々(ER医師、牧童、バレリーナ、兵士など)が登場する。ナレーションは英語とスペイン語で行われる。「このCMで伝えたかったことは、一人ひとりが米国という国の中で重要な役目を果たしている姿だ。その人たちの前進が、結果的にはこの国の前進になる。そのことを伝えたかった」と、アノマリーのCEOカリーナ・ウィルシェアは言う。
このCMのもう一つのテーマは、共和党次期大統領トランプの人種偏見に対する批判と皮肉だ。人種偏見 ...