電子書籍では得られない紙の本の魅力のひとつが、手触りや質感だ。ブックジャケットをつけられるのも本ならではの楽しさ。さまざまな質感を持つ竹尾のファインペーパーを使用し、そこに多彩な印刷加工技術を掛けあわせることで、触って感じる新しいブックカバーを提案していく。
紙の上に色とりどりの線で描かれているのは、寿司ネタを表現したグラフィック。目を凝らして見ると、「こはだ」「ほっきがい」「かんぱち」…とだんだん読めてくる。裏面には、一面に銀色の「しゃり」(=銀しゃり)が敷き詰められている。
この海鮮丼ならぬ「海鮮本」のブックカバーをデザインしてくれたのは、博報堂アートディレクターの小杉幸一さんだ。今年4月、小杉さんは東京 銀座にある築地玉寿司の晴海通り店で「小杉幸一×築地玉寿司展」を行った。
「ダイヤモンド社の『ハーバード・ビジネス・レビュー・オンライン』で築地玉寿司の中野里社長と対談する機会があり、その時に先代社長の顔を『つきじたまずし』の文字で描いたロゴを見せてもらったんです。そのロゴがとてもよくて、そこからネタを文字で表現する『もじにぎり』の展覧会を企画・実施することになりました」。
この「海鮮本」は、ブックカバーとそれにくるまれた本をシャリに見立て、『もじにぎり』のネタの部分だけを盛りつけたものだ。使用した紙は竹尾のファインペーパー「新だん紙 きらら」だ。「この紙自体の質感と輝きが、まるでシャリのように見える!と思って(笑)。文字で構成されている“本”と、文字で構成したネタなので、その点でも相性がいいと考えました」。
印刷加工はオフセット印刷をメインに、一部の光り物のネタには箔を使用。実際に印刷してみると、紙の輝きがオフセットインキを透過して、ネタを新鮮に見せてくれるという嬉しい発見もあった。一方、箔は細いラインでもインパクトがあり、効果的なアクセントになっている。
和の伝統的なテイストを持つ紙に、あえて現代的なグラフィックデザインを乗せることで、紙自体の新しい見せ方も発見することができた。
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小杉幸一(こすぎ・こういち)
1980年生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。
博報堂 クリエイティブディレクター/アートディレクター。