4月からの新年度に向けて、組織体制が変更される企業も多いことだろう。広報会議編集部が2015年11月に111社の広報部を対象に実施した調査でも広報部が新設されたり、経営企画室や社長室の直轄になったとの声が。「広報部が新設されたとき、まず何を行うべきか」という疑問に答えるべく、近年に新設、体制変更した3社の広報担当者に話を聞いた。
レディースアパレル業界をけん引 組織改革で広報周りの環境整備へ
クロスカンパニー
レディースアパレル業界のクロスカンパニー(岡山市)はグループで20以上のブランドを展開している。特に女優の宮﨑あおいを起用したCMや広告などのプロモーション展開で馴染みのあるearth music(アースミュージック)&ecology(エコロジー)は、都内近郊の商業ビルはもちろん、地方の大型ショッピングモールなどにも次々と全国の店舗数を拡大している。国内の店舗数はFCを含めて384店舗(2016年1月末現在)。ターゲット層の若い女性にとっては定番のワードローブブランドという市民権を獲得しつつある。
加えて昨今ではアパレルブランドの展開のみならず、服の定額借り放題サービスの提供やアニメ作品とのコラボレーション商品の展開、そしてアイスクリーム専門店の運営など、従来の在り方にとらわれないビジネス展開に乗り出しているのだ。
会社の創立は1994年6月。代表取締役社長を務める石川康晴氏は、自身の経営哲学を記した著書も出版しており、岡山に本社を置きながら事業を拡大している。
earth music&ecologyなど、若い女性に人気のブランドをグループで20以上も展開。
上場を見据えての新設
そんな同社がパブリックリレーションズ本部を社内に新設し、大規模な組織改革に乗り出したのは今年の2月のこと。2016年度中の上場を見据え、コミュニケーション関連の環境整備のため、新たに同本部を設置した。このパブリックリレーションズ本部とは社長直轄の組織で、広報部やIR部、危機管理室などを集約したもの。同部ではメディア対応といった広報の役割はもちろん、リスク管理やコンシューマーリレーションズといったコミュニケーション活動全般を担っていくことになる。
今回、そんな新設のパブリックリレーションズ本部について語るのは広報部の木本由有氏だ。同社が3社目になるという木本氏は、以前は自動車メーカーなどでコーポレートの広報やPRを経験しており、クロスカンパニーへ入社してからは1年ほどになるという。先述の組織改革にあわせて今年の2月より広報部の責任者として着任している。「上場とグローバル展開加速に向けて、コミュニケーションの力は欠かせない」と話しており、社外はもちろんのこと社内向けのコミュニケーションにも注力している。
社員数 | 単体3022人(2016年1月末現在) |
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広報部設置年 | 2015年(広報チームは2013年から) |
広報部設置の背景 | 2016年度中の上場に向けた社内体制の整備 グローバル展開促進のための情報発信 |
宿泊予約サービスの黒船襲来 広報体制の確保でプレゼンス向上へ
ブッキング・ドットコム
国を挙げた観光立国としてのプロモーション戦略の甲斐あって、訪日観光客数は右肩上がりで増加し“爆買い”現象までも巻き起った2015年。そんな旅行機運の高まる日本において好調なのがオンラインの宿泊予約サービスだ。なかでも黒船襲来のごとく、国内でその勢いを加速させているのがオランダに本社を置くブッキング・ドットコム。世界でのユーザー数は創業以来の累計で10億人を突破した。
昨年より日本での本格展開をスタートしている同社では、国内の利用可能施設の拡大をはじめ、テレビCM出稿による認知拡大に着手。さらに今年に入ってからは規模拡大のため、東京・大崎にカスタマーサービスセンターのオフィスを設置した。24時間365日対応のカスタマーサービスセンターは、42カ国語で対応可能。日本のセンターでも英語、タイ語、中国語、そして韓国語に対応するスタッフを在籍させるという力の入れようだ。
ホテル・旅館などの宿泊施設に関するオンライン予約を扱う「Booking.com」を展開。
専属広報は主要都市にのみ設置
同社が広報体制を整えようと乗り出したのも、そうした日本市場におけるプレゼンスの向上が目的である。世界規模でビジネスを展開する同社では、基本的に広報は本社のPRをハブとしており、各国の広報的活動は代理店が担っている。ただし、なかでも主要都市である本社を置くオランダ、北米、APAC、中国、そして日本にはローカルの専属社員が置かれているという体制だ。特に日本においてはブランディングや宣伝も兼務している。
今回登場する広報・マーケティング担当部長の岩崎健氏は、同社の広報、マーケティング体制を基盤からつくり上げるために昨年5月に入社した。同社に参画する以前は、サンディスクのマーケティング・ディレクターとして広報・宣伝からプロダクトまで、マーケティングのすべてを統括してきた経験を持つ。また、他にもウォルト・ディズニーやマイクロソフト、アメリカン・エキスプレスといった様々なITや、コンシューマー製品のグローバル企業でも要職に携わってきた。「広報の視点で見ても、外資系企業が持つ特有の課題や越えなければならないハードルは多い。ローカル社員として常にフットワーク軽くありたい」と語る。
社員数 | 200人(日本国内)/1万人(グローバル) |
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広報部設置年 | 2015年5月 |
広報部設置の背景 | 日本においてのプレゼンス向上を目的としたブランドの認知拡大 日本というユニークなマーケットを把握するためのローカル社員の設置 |
ホールディングス化で浮かび上がった広報体制強化の必要性
パイプドHD
今年1月、「新進ベンチャー」「最新上場企業」「実力派老舗企業」の3ジャンルから、社会にその存在を知られるべき31社を紹介した『ザ・ファースト・カンパニー2016』(ダイヤモンド社)が発表された。そのなかで「飛躍のステージに立つ次代の主役」として紹介されているのが、データベースを活用したクラウド型サービスに力を入れるパイプドHDである。
同社はクラウド型の情報資産プラットフォーム「スパイラル」シリーズをメインに手がけるパイプドビッツからの単独株式移転により設立した純粋持株会社で、昨年9月1日から新たなグループ経営体制をスタートしている。同社はこのパイプドビッツをはじめ、建築設計事務所や建設業者にクラウド型プラットフォームや3次元データ「BIM」を提供するペーパレススタジオジャパン、そしてコールセンタープラットフォームを提供するアズベイス、自治体の広報のIT化を支援する「マイ広報紙」を提供するパブリカ、『ViVi』(講談社)の公式通販サイト運営やシステム開発、バイイングなどを担うウェアハートなど、クラウドやITといったキーワードのもと、既存の枠にとらわれない斬新で利便性の高いサービスを開発する会社で構成されているのだ。
パイプドビッツをはじめ、ペーパレススタジオジャパン、アズベイスなど7社が幅広い事業を展開している。
兼任体制からの新設
そんな同社の広報体制が整ったのは昨年12月のこと。グループ事業会社間の相乗効果を高めるには、各グループ会社の情報を同社が集約・統一し、発信することが必要不可欠。それを受け、これまでは広報とIRの兼任体制を敷いていたが、広報に特化した部門を設置すべきと新設に至った。また、グループ会社間の交流や連携を深めるため、インナーコミュニケーション強化の観点からも広報に注力できる部門が必要と考えたという。
今回登場する広報部部長の久保陽子氏は、新卒でパイプドビッツに入社して以降、営業職を6年間、そして顧客サポートの業務にも3年ほど従事してきた経験を持つ。広報経験はまったくなかったが、対顧客のコミュニケーションに慣れている立場が評価され抜てきされたのだそう。「手探り状態だが、できることからどんどん着手したい」と久保氏は言う。
社員数 | 289人(連結) |
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広報部設置年 | 2015年12月 |
広報部設置の背景 | グループ会社統合にともない、各社の情報の集約と統一が必要に HD化でインナーコミュニケーションを強化 |
アパレル、宿泊予約サービス、クラウドサービス。各分野において台頭する3社が広報部設立の背景や現状の課題、社内情報収集の方法などについて意見を交わした。
左からクロスカンパニー 広報部 部長代理 木本由有氏、Booking.com Consulting Services Japan 広報・マーケティング 担当部長 岩崎 健氏、パイプドHD 広報部 部長 久保陽子氏
ブランドと会社が合致しない
──今回は業種や業態のまったく異なる3社にお集まりいただきましたが、それぞれ広報視点における課題も異なるかと思います。まずは、自社の課題をどのように捉えていますか。
木本:クロスカンパニーは未上場の会社ですが、2016年度中に上場を目指していまして、今回コミュニケーションに関する組織を大幅に改編したのも、この上場を目指していることが大きなポイントになっています。しかし、上場となると個々のブランドだけでなく …