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青山広報会議

自治体の戦略広報を考えよう―茨城県×千葉県流山市×埼玉県三芳町×和歌山県

47の都道府県とおよそ1700の市町村によって構成される日本。それぞれの自治体には、文化、経済、そして歴史など様々な特色がある。近年は、キャラクター活用やPR動画など手法自体は広がっているものの、その効果や影響についてはシビアな声も聞かれる。今回はキーパーソン4人が集結。各自治体がトライしている「戦略広報」を語り尽くした。

民間企業出身の知見活かす

――今回お集まりいただいた皆さんの自己紹介からお願いします。まずは、4月に茨城県の広報監に着任した取出さんから。「茨城県庁が年収1000万円で広報監を公募します!」というニュースが今年の初めに話題になっていましたよね。

取出:ありがとうございます(笑)。私は民間企業出身で、大学院で物理学を学んだ後にインテルに入社しました。ですから元々広報の専門家だったわけではなく、どちらかと言うとIT、ネット領域の出身なんです。

今回の公募の前に、2013年の4月から県の広報広聴課で広報ICTディレクターとして常駐していたこともあります。その後インテルを退職して、今年の4月から現職です。

河尻:私も取出さんと同じく、民間出身です。現在は千葉県の流山市でメディアプロモーション広報官を務めていますが、以前は企業で14年間、営業やマーケティングの仕事をしていました。その後、一般公募の任期付職員として採用されて7年目になります。任期自体は最大5年なので、現在は二期目に入ったところですね。

佐久間:この10年の流山市の住民誘致PRの成功例は、様々な自治体のシティプロモーション担当者にとってお手本ですよね。

河尻:いやいや、ありがとうございます(笑)。佐久間さんとはメールでのやり取りのみでお会いするのは初ですが、やっぱり「日本一の広報誌」をフックとしたPRがすごい。

佐久間:ありがとうございます。私は埼玉県三芳町役場で秘書広報を担当していまして、今年の5月に全自治体の広報を競う「全国広報コンクール」の審査結果で『広報みよし』(2014年11月号)が最高賞となる内閣総理大臣賞をいただきました。それがきっかけで、いろいろな自治体の方に「あの三芳町だね」とお声がけいただく機会が多くなりました。

日根:佐久間さんは、ずっと広報を担当していらっしゃるんですか?

佐久間:2002年に入庁しましたので公務員歴は15年目になるのですが、以前は税務課、介護保険を担当していたんです。広報は5年目になります。

日根:4年で広報誌日本一に輝かれたのですね。ぜひ後ほど、詳しく教えてください!

私は和歌山県東京事務所でPRを担当しています。首都圏PRはかれこれ8年になりますが、自分では「県直営PR会社」だと思っています(笑)。

今は、メディアへのプロモーション以上に、メディア関係者や各界のインフルエンサーとのネットワークづくりに力を入れて都内各所に出没しています。公務員歴は30年になるので、佐久間さんのダブルスコアですね。

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10月某日、宣伝会議本社で開かれた座談会。広報の現場の課題や提言、本音が次々と飛び出しました。皆さんの情熱と勢いに圧倒されつつ、あっという間の90分でした!

「話題の種」収集に一苦労

――まずそれぞれの自治体のミッションと、抱えている課題を教えてください。

日根:どこの自治体も同じかと思いますが、第一に、いかにして庁内や地域の情報を素早くキャッチアップすることができるかが大きな課題です。

取出:PRのための自治体の情報収集といえば、どうしても“外向き”の観光情報に偏りがちですよね。

日根:そうなんです。けれども、あまり日ごろから観光に興味のない人には、和歌山の観光情報がたくさんあったとしてもその人のアンテナに引っかかりません。それに、観光は他の自治体との競争がし烈ですから、集中して戦わなければならない。だから、和歌山県は観光と広報が2馬力でメディア対応に注力しているんですよ。

私は基本的に県外、特に首都圏に向けたPRを担当してきましたが、同じ資源でも観光の切り口だけでアプローチするのでなく、文化や医療、経済といった入り口をつくって、県の取り組みを多角的に発信できるように心がけています。

取出:でも、いろんな部署からの情報をかき集めることってやっぱり大変なんですよね。

河尻:そうなんですよね。これは自治体の縦割り意識だと思うのですが、広報以外の部署は「自分の部署は情報を世の中に出すところじゃないから関係ない」という意識がある気がします。私たち広報からすれば、各部署には市内外にお知らせしたほうが良いことがゴロゴロ転がっているんですけれど、それが話題の種であることに部署の中の人は気付けないんですよね。

ですから、埋もれたままになっている情報もたくさんあると思います。それが本当にもったいない。

取出:もし情報を見つけたとしても、「これ、使って良いですか?」と聞くと、ほぼ100%「上に確認します」と言われてしまいますから(笑)。

私も民間からやってきて強く感じるんですが、自治体って権限移譲のレベルが不明確なんですよね。だから、いつまでたってもOKが出ない。

佐久間:Facebookの投稿ひとつでも、いちいちOKをもらわないといけない自治体もあるらしいですしね。でも、旬なネタは旬のタイミングで世の中に出していかないといけないから、スピードも求められる。そこがまた難しいところです。

日根:理想を言えば、各部署の人たちが「こんな情報あるんだけど、ネタにならないかな?」と持ってきてくれるようになれば、最高ですけどね。

河尻:それと、県と市町村でも情報収集の難易度は全然違うと思います。私は市のことだけ見ていればいいですが、県だとそもそもの情報量が多すぎて拾いきれないイメージがあります。

佐久間:同感です。それに、自治体の広報活動では情報をいかに公平に扱うかも重要視されますから、県の場合は情報が多い分、扱い方も余計に骨が折れる気がします。

取出:確かに、公平に情報を発信するとインパクトがなくなるのは事実です。例えば、県内で開催されるお祭りを特集するとしても、ユニークなものや規模の大きいものだけ2~3個ピックアップすることはできなくて、お祭りが10個あったら10個とも取り上げないといけませんから……。そういう点では、情報収集や発信においては県の方が市町村より難しい点が多いのかもしれません。

市のPRに市民を巻き込む

日根:実際に市民との協働を意識すると、市町村の方が身近で共感を得られやすいような気がしますが、どうですか?

取出:確か流山市では、しっかりターゲットを絞った定住人口増の取り組みを実施していますよね。

河尻:はい。流山市では30~40代の首都圏で働く共働きの夫婦に定住を促すようなPRを2009年から行ってきました。「母になるなら、流山市。」のコピーを掲げた首都圏駅広告プロモーションもその一環です。

当初は「ターゲットを絞っても良いのか」と言われたのですが、絞るからこそ他の自治体と差別化が図れるのではないかと考えて続けてきました。

取出:そうした、ある種突き抜けたことができるのも、市町村ならではのような気がします。他の自治体でも「何とかして流山市のような施策を実現したい」という声をよく聞きます。

河尻:それはとても嬉しいことなのですが、実は取り組みを始めた当初に一度大きな失敗をしているんです。

はじめは私も、メディアに「流山市」の名前が露出することを第一に考えていたんです。いろんなメディアに当たって、どんどん情報を提供して、自分が動けば動くだけ、テレビや新聞に取り上げられて、手応えも感じていました。けれど、ふと後ろを振り返ってみると、肝心な市民の反応がとても薄かった。「テレビに流山が取り上げられたところで、実際に住んでいる私たちには何のメリットもないよね」という空気感になっていたんです。

これはマズいと思いました。「私たちマーケティング課5人の職員が首都圏へPRすることに加え、17万人の市民が自ら流山市の魅力をPRしてくれるようになれば、むしろその方が効果的」と、そのとき気付いたんです。

佐久間:確かに、どれだけ外向けのPRに力を入れても、市民がついてこなければ結果的に町は盛り上がりませんからね。そこで具体的にどんな対策をとったんですか?

河尻:市のPRに市民を巻き込むところから始めました。露出をするときも、できるだけ市民の方々に出てもらうようにすることで、皆で流山を盛り上げようという機運を高めようとしたんです。これが功を奏して、取材に協力的になっていって、「私たちも何かお手伝いするよ」と言ってくださる方まで現れました。

日根:まさに市と市民が一丸になってつくりあげるPR戦略。すばらしいですね。

    千葉県 流山市
    人口 17万4437人
    課 題

    ・観光に寄らない地域のブランドづくりをどのように行うか

    ・「あ〜!流山市ね」ブランドの定着

    注 力

    ・人がシェアしたい、メディアが取り上げたいと思えるような広告やイベント

    ・「住みたいまち」「住み続けたいまち」として、知名度とイメージを向上させるために、“人を名物”にする魅力の掘り起こし
    →ここにしかない流山市ブランディング

    ・市内外の方々を、流山市に関わりたい! と思わせる仕掛け

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    4日間で4万5000人が来場「森のナイトカフェ」
    流山おおたかの森南口駅前広場にて8月5日から4日間、17時から21時という時間帯限定で、親子が「おソト飲み」を楽しめる「森のナイトカフェ」をオープンした。水しぶきがあがるステージや噴水のアトラクション、アクアボートなどを設置し、飲食しながら遊べるエリアも設けた。来場者からは「親子が一緒に屋外で楽しく飲める場所はほかにはない」という意見もあり、遅い時間の開催ながらも4日間で4万5000人が来場。市外からの来場も3割を超えた。

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    市内外に「流山市に住む母」の魅力アピール
    10月5日より首都圏の駅で広告を展開。市外への発信に加え、市民の熱量を高めるツールとしても活用している。17日には市内で広告と連動したイベントを開催し、市内に住む5人のママたちが東京・丸の内KITTEに1日出展するチャンスをかけたプレゼンを行った。子育て経験によって得られるスキルや知恵を市外にアピールすることで、「流山市に住む母」の魅力を伝えることを狙った。

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    10月のイベント「そのママ夢Party」の様子

ゼロからつくった日本一

日根:三芳町の広報誌は、元「モーニング娘。」の吉澤ひとみさんを表紙に起用したりと、一見自治体の広報誌とは思えないようなデザインですよね。

佐久間:ありがとうございます。今のスタイルになる前は、それこそ一般的な広報誌と何ら変わりないものだったのですが、それではどうしても手に取ってもらいにくく、特に若い人たちに読んでもらうことは難しいと感じていました。しかし、そうは言っても予算はほとんどゼロ円でしたから、何とかアイデアで勝負するしかなかったんです。

取出:ということは、吉澤さんもノーギャラだったんですか?

佐久間:そうなんです。吉澤さんは三芳町の出身で現在、広報大使を務めていただいているのですが、こちらからきちんとしたギャラのお支払いができない以上、吉澤さんにも何とかメリットを感じていただけるように、吉澤さん自身のプロモーションにも三芳町を使ってもらうことでWin-Winの関係を築くことができています。

また、それ以上に吉澤さんご自身が三芳町というふるさとを愛してくださっているんです。なんと言っても、その事実が大きな原動力になっていると思います。

河尻:吉澤さんではなく、一般の方が表紙を飾っている号もあるようですが、こちらのパターンも住民にとっては嬉しいですよね。もしもご近所さんが表紙を飾っていたら、私も絶対手に取ってしまうと思います(笑)。

佐久間:ご近所さんや知っている人が表紙に出ていると、「今号は○○さんが表紙だったよ!」と、自分たちでどんどん広報誌を拡散してくれるんです。結果的にこの広報誌が住民同士のコミュニケーションツールにもなっているようで、とても嬉しいですね。

日根:うらやましい!しかも、三芳町の広報誌は電子書籍でも発行していらっしゃるんですね。

佐久間:はい。アプリ開発会社のモリサワとのコラボレーションによって、英語や中国語、韓国語など全五言語で配信しています。

日根:インバウンドも意識しての多言語化ですか。今後、市民参加でもっとおもしろい広報誌ができあがりそうですね。予算のフォローはどうですか?

佐久間:そうですね……。でも正直なところ、予算が潤沢にあったところで何ができるだろうと考えても、意外と思い浮かばないんですよね。

河尻:同感です。制限がある中でアイデアを絞り出して、できうることを考えるのが …

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