なぜTikTokで「踊ってみた」が流行るのか
前回、前々回(『宣伝会議』5月号・6月号)に続いて、「楽しさ」について考える。チクセントミハイの「フロー体験」論は興味深いけれど、それって孤独に「道」を究める、いわば「オタク」的楽しさを説明する理論なのかな?と思われた読者もいるかもしれない。いや、そうではないところが、「フロー体験」論の真骨頂である。
チクセントミハイは、調査を通じて、フロー体験の楽しさの源泉として、前回述べた「内発的動機付け」を重視しているが、それを促進する要因のひとつが「他者との親密な関係」であることを明らかにしている。
どうやら、アスリートや芸術家、ゲーム・プレイヤーたちは、孤独に自己と向かい合っているようでいて、実は(仮想的に)、自分の背後にいる多くの人々の支えを感じ、そうした人々との一体感の中に自我を融合させていくようなのである。つまり、「フロー体験」は一見、孤立的であるように見えて、実はきわめて社会的な体験なのである。
だからこそ、オーディエンスは、棋士たちの動かない背中に声援を送り、競技場を揺るがすような轟音のような手拍子でアスリートたちの「全集中」を助けている。プレイヤーはオーディエンスであり、オーディエンスはプレイヤーである、という一体化の状況が、強烈な感興を生むのだ。・・・
あと60%