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日本の社会に潜む「歪み」を言葉を通したメッセージで可視化させる

水無田気流

1970年生まれの詩人・社会学者の水無田(みなした)気流さんは、「この国は巨大な時空の歪みが存在している」というメッセージを伝える表現者だ。高齢化社会やジェンダーなどの社会問題、メディアが担う役割などを指摘した。

水無田気流(みなした・きりう)さん
1970年神奈川県相模原生まれ。詩人、社会学者。早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。詩人として「音速平和」で中原中也賞、「Z境」で晩翠賞を受賞。著書に「「居場所」のない男、「時間」がない女」、「シングルマザーの貧困」、「無頓化した女たち」、「黒山もこもこ、抜けたら荒野 デフレ世代の憂鬱と希望」、「平成幸福論ノート」(田中理恵子名義)など。テレビ・ラジオの出演依頼、講演依頼も多い。

幼少の頃から常識を超えた本の虫

著書の『「居場所」がない男、「時間」がない女』、『シングルマザーの貧困』やなど、日本社会が抱える諸問題を、データを交えてわかりやすく解説しながらも、こうした問題に向き合ってきた水無田気流さん。詩人と社会学者という側面を持つほか、大学教授、全国を駆け抜けるセミナー講師、ラジオ・テレビでのコメンテーターなど、何役もこなすワーキングマザーだ。

「いつも自分の中には、常勤では7体の人格ならぬ"筆格"がいます。その中の0番が詩人なのですが、社会学者として論文を書いて発表したり、書評やコラムを執筆したり、その時々で"筆格"が異なっています。言わば脳内ワークシェアリングをしている状態です。さまざまな筆格同士が入れ替わりながら、自分を形づくっているという感じですね」と水無田さんは話す。

水無田気流は筆名(ペンネーム)だ。「詩人の中原中也の『蝉』という詩が好きで、この作品の中に出てくる、「それは中国のとある田舎の、水無河原といふ」という一節と、本名である田中の田を合わせて名字にしました。"気流"という名前は、松尾芭蕉の薫風俳諧の中にある『不易流行』という"あらゆるものが流転し変化していくことこそが物事の本質である"という概念からきています。いろいろな風に解釈ができる懐の深い言葉なので、ここから真ん中をとって「キリウ」としていましたが、姓も名も三文字づつでは座りが悪いので、当て字をして気流としました」。

幼い頃から寝食を忘れるほどに活字に触れることが好きだった彼女は、小学校5年生の頃には同人誌のようなものを制作したり、詩や小説を書き始めていたという。

「ジャンルは絞らず手当たり次第『今週はこの棚の本を読もう』と決めて図書館の本棚の端から順に読んでいました。小遣いも全部本に費やすなど、毎月60・70冊は本を読んでいる変な子どもでした。読む本がなくなれば辞書や電話帳を開いていましたね」と水無田さんは振り返る。

詩は言葉の鎧が表に飛び出た 人間社会の澱のようなもの

水無田さんは成長するにつれ、世の中や社会と自分との間に「ひんやりした、見えない壁」が存在しているように感じ、「自分を取り巻く現実は、苦手なものばかりで構成されている」という違和感が強まっていったという。そんな気持ちを何かに託せずにはいられなかったのだろう。

「詩は、普段他人とコミュニケーションを取ったり、交渉したり、何かの"ために"張り巡らされてその分不自由に言葉を縛り付けている鎧みたいなものが瞬時に解除されて、一番表現衝動の核みたいなものが、ボロッと表に出やすいのだと思う」と話す。

大学院(早稲田大学大学院社会科学研究科)博士後期課程在学中に、彼女は詩を投稿するようになった。「現代詩手帖」(思潮社)もそうした作品のひとつだ。

「今日もケイタイデンワで/みんな虫になっていく/虫になってみる/虫の思想の羽音が/青い闇の沸点を突き抜け//「言葉が電磁波と共にフルエルノダ」//世界がカオモジで記載される夜に/私は君とどの地点で待ち合わせよう?」(水無田気流著、『音速平和』所収、「電球体」より)。

水無田さんの詩は、IT機器に包囲された日常感覚をたくみにすくい上げ、現代に生きる人々や社会に鋭く突きつける。

「私は人間社会がどうにも苦手なので、『どうしてこんなに苦手なんだろう。でもこれをなんとかしなければ生きていけない』と思って、考えをめぐらせているうちに、気づいたら社会学者になっていました。一方で、社会学的な、ソーシャル・サイエンスの言葉では捉え切れないところも、どうしても気になってしまう。ロジカルに説明しようと頑張ってみてもしきれない、"澱"みたいなものがいつも残るのです。それが発作的に詩になってしまった、という感じでしょうか」 ...

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