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大手から中小まで ネット社会でブランドが信頼を得る方法

いま求められるのは「下から目線」ネット上で受け入れられる広告のあり方

宮地成太郎(電通)

広告への批判が殺到し、せっかく始めたにも関わらず中止に追い込まれるケースが増えている。そうした「炎上」が発生してしまう理由は何なのか。また、ネット上で受け入れられる広告について電通 CDC クリエーティブ・テクノロジスト 宮地成太郎氏に聞きました。

(C)123RF

「降臨」という言葉に隠されている意味とは?

ネット上でよく使われる「降臨」という言葉。その意味を考えると、とても面白いキーワードではないでしょうか。テレビや新聞、それを取り巻く芸能界や財界など、いわゆる「雲の上の人」がネット(下界)に登場したときに使われる言葉なのです。ネットに普段からいる人が、ネットに登場しても、ほとんど使われません。

つまり、ここから何が読み解けるかというと、マスメディアや広告、芸能人などの、なんとなく華々しいイメージ(実際は違ったとしても)を「上っぽいもの」として分類し、ネットは「下っぽいもの」に分類されるよね、という空気やコンセンサスがあるのかもしれない、ということです。

事実として、そうであるかどうかは別にして、少なくとも人々に広くそういう認識があるからこそ、「降臨」というワードが生み出されたのだと、僕は考えています。どうでしょう(間違っていたら、すいません)。

そしてこの認識は、双方向コミュニケーションを語る上で、発信する企業や広告が「上」になってしまうことに、自戒の念を与えてくれるという意味でとても大切なキーワードになると思っています。

「上」と「下」という概念がネット上に仮に存在するとして、当然「上の人が下の人に何かを押し付けたらムカつく」という、人間であれば当然のように抱く感情も、ネット空間には引き継がれることになると思います。この文章を読んでくださっている広告に関わる方々の言葉に翻訳してしまうと、つまりそれは「広告を強制的に見せられるとムカつく」という身もふたもない話です。

消費者は、そういう気持ちのベクトルで広告を見ますから、当然、広告は厳しい批判にさらされますし、他のコンテンツ以上に粗探しの対象になってしまいます。

その上、欲しくもないのに華やかな芸能界のタレントたちが、上から目線で「便利ですよ!」「すごいですよ!」「面白いですよ!」など、年がら年中、勧めてきますから、むしろ腹を立てない方が難しいと思うのです。

かくいう僕も広告に腹が立っています。「うるさいよ!お前のオススメとかどうでもいいよ!」と、わりと毎日思っていますし、YouTubeの動画広告「TrueView」はスキップします。そもそも「TrueView」の広告が大好きという人は、この世に存在しない気がするのですが、実際のところはどうなのでしょう。

もちろん批判しているわけではなくて、強制的に視聴させることに価値があるからこそ、媒体費という価値が大きな市場を生み、取引されるのだと僕は理解しています。

だらだらと書きましたが、広告という存在自体がそもそも「上から」であって、受け取る消費者側には「広告は炎上させてもよいもの」という認識があるのです。そういう状況が良いか悪いか、好きか嫌いかは置いておき、事実としてしっかりと理解しておくべきだと思います。

炎上を怖がる「自粛ムード」は本質を見誤っている

クライアントさんや制作者サイドからよく言われる「過激なことをやると炎上する」とか「最近は厳しいから」という認識は、完全に間違いとは言わずとも表層的で本質は捉えていないと思うのです。

広告制作をするときに自粛モードが凄まじく広がっています。提案した内容が面白すぎると「炎上しないですか?」と止められて、少しでもバズにふると「今すごく時代が厳しいから、もっと丸くした方がいいんじゃないか」と、広告制作物のクリエイティブが丸くなっていってしまう現象を指しています。

例えばジェンダーに関する男女問題や多様性の話など、クレームにつながりそうなものをなんとなく表現の表層で「やめた方がいい」となっています。しかし、ことの本質は「広告という上から目線の押し付けメッセージ」だから炎上するわけで、その目線さえ直すことができれば炎上はしません。

実際にネットを主戦場にするYouTuberたちはコーラ風呂にメントスを巻いて飛び込んでも批判されないですし、テキ屋のイカサマくじを買い占めて店主につめ寄る、かなり攻撃的な動画をアップしても、とがめられないどころかむしろ賞賛すら浴びています。

大事なことは「誰がやるか」であって、広告という上から目線の押し付けコンテンツは、そのメディア特性上、表現に細心の注意を払う宿命を追っているのです。これも好きか嫌いかは別にして、認識しておかなければいけないと思います。

仮にですが、全く同じ内容・全く同じキャストの映像を配信するにしても、その媒体が広告なのか、映画館で上映される映画なのか、ネットの有料配信なのか、画質の悪い無料配信なのかで、人々のリアクションは全く変わってくるはずです。

ネット上で受け入れられる「下から行く」作戦とは?

さらに言えば、この考え方を推し進めていくと、「双方向コミュニケーションをしよう!」などと、広告や企業発信で語りかけること自体が、無理があることに気づきます。いつも目に入ってきて自分の話ばかりしてくるジャイアンが、急に馴れ馴れしく「宮地選手~、今日からは仲良くしようぜ!」なんてグイグイ寄ってきて肩を叩いてきたら、相当ウザいですよね。少なくとも僕ならブチ切れますし、「今までそうじゃなかっただろ!」と思います ...

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