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広報担当者のための企画書のつくり方入門

博物館法改正でチャンス到来⁉ 地域連携を軸にした博物館・美術館のPR企画

片岡英彦(東京片岡英彦事務所 代表/企画家・コラムニスト・戦略PR事業)

「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。

地域連携のPR施策で観光客を誘致

令和4年度の博物館法改正*により、博物館や美術館には、地域連携によって観光客誘致を加速する新たなPR戦略が必要とされている。法改正によって、博物館の役割が再定義され、地域との連携やデジタル化の推進が重要視されるようになった。そのため、地域の観光資源や教育機関と協力して、新たな価値を創出し、観光客を呼び込むことが重要となる。今回はこうした状況の中、地域連携を軸とした博物館・美術館のPR戦略に焦点を当て、その実現方法や取り組みについて考えていく。

*令和5年4月施行

視点1
博物館法の改正で広がるビジネスチャンス

法改正でどんな変化が予測されるのか

令和4年度博物館法改正の背景には、博物館の設置形態の多様化や役割・機能の高度化がある。この改正では、博物館の事業の一つとして資料のデジタル・アーカイブ化が追加され、地域連携・協力の促進などが期待されている。私はこれを“ビジネスチャンス”として捉えることができると考えている。

図1 令和4年度博物館法改正の主な内容(一部)

● 博物館登録制度の見直し
 ▶国と独立行政法人を除く、あらゆる法人が設置する博物館が登録可能に

● 法律の目的及び博物館の事業の見直し
 ▶博物館資料のデジタル・アーカイブ化を事業の一つとして位置付け
 ▶他の博物館や地域の多様な主体との連携による地域の活力の向上への寄与を努力義務化

*参照:文化庁「博物館総合サイト」

この改正により、博物館が地域社会と連携し、地域の活力を高めるために果たす役割はこれまで以上に大きくなっていくものと考える。地域の観光資源や産業と連携した取り組みが増えていくことだろう。その結果、地域ビジネスへの貢献も期待される。

また、デジタル技術の活用が推進されることで、デジタル化やアーカイブ化に関連するサービスや技術の需要が増加し、関連産業に新たなビジネスチャンスが生まれるだろう。さらに、博物館の設置形態が多様化することで、民間企業やNPOが博物館運営に参入しやすくなっていく。こうした大きな流れによって、新たなビジネスモデルやサービスが産学官の連携で開発されることが期待できる。博物館・美術館のPR担当者は、観光客誘致に向けたPR視点から、この変化に“前向き”に対応していくことが重要だ。

図2 博物館法改正から期待できるビジネスチャンス

(1)デジタル・アーカイブ化のニーズ増加
デジタル技術の活用が推進されることに伴い、デジタル化やアーカイブ化に関連するサービスや技術の需要が増加し、関連産業に新たなビジネスチャンスが生まれる

(2)地域連携・協力の促進
地域連携・協力が重視されるため、地域の観光資源や産業と連携した取り組みが増え、地域ビジネスへの貢献も期待される

(3)博物館設置形態の多様化
博物館の設置形態が多様化し、民間企業やNPOなどが博物館運営に参入しやすくなる。新たなビジネスモデルやサービスの開発が始まる

(4)観光客誘致への貢献
博物館が地域連携やデジタル技術を活用した取り組みを行うことで、観光客の誘致につながり、地域経済への貢献が期待される

視点2
PR企画の立案時のポイント

博物館・美術館の価値向上に向けたPR施策

博物館法改正に伴う、博物館・美術館におけるPR企画書の作成には、図3のような軸を設定することが重要だと考えている。

図3 企画書上の「軸」となる要素

① デジタル展示やアーカイブ企画に関わるビジネス拡大への対応
② 地域連携の強化
③ オンライン・オフライン融合
④ 独自性の追求
⑤ 持続可能な発展

具体的なPR施策としては、SNS活用、地元メディア連携、コラボ企画、大学連携などが考えられ、こうした施策を通じて、最終目的となる「博物館・美術館の価値向上」を目指していくことになる。また、企画書作成時には、地域連携・協力促進や博物館設置形態の多様化を考慮することも求められる。

ここからは、地方の小規模施設を対象に、限られたリソースでPR戦略と実行プランを考えていく。

デジタル・アーカイブ企画への対応

博物館法改正に伴いPR部門では、デジタル・アーカイブの企画・開発を進めるとともに、施設への訪問者数を増やし、地域文化や歴史を発信する施策が重要となる。地域との連携もさらに期待されるため、地域の文化や歴史を反映した展示やイベントを自らPR目的として企画・運営し、地元の産業や観光資源との連携を図るなど、地域全体の発展に貢献していくことが期待される。企画書内に欠かせない要素を「戦略」「実行」のそれぞれのフェーズに分けて、考えていく(図4)。

図4 デジタル・アーカイブ企画のPRの例

● 戦略立案フェーズ
 ▶目的の明確化
  デジタル・アーカイブ企画で地域文化や歴史を発信し、訪問者数を増やす
 ▶ターゲットの設定
  地方在住者、観光客、学生など
 ▶コンセプトの設定
  地域の文化や歴史を活かした展示やイベントを企画。地元の産業や観光資源との連携を図り、博物館・美術館を地域の魅力的なスポットにする
 ▶メッセージ設計
  「私たちの博物館・美術館は、地域の文化や歴史を反映した展示やイベントを通じて、地域の魅力を発信し、地元の産業や観光資源と連携して地域全体の発展に貢献します」などのメッセージを設計する
 ▶アクションプランの策定
  上記のコンセプトとメッセージに基づき、地域の文化や歴史を反映した展示や、地元の産業や観光資源との連携を強化するイベント、SNSやウェブサイトを活用した情報発信などのアクションプランを策定する

● PR活動の実行フェーズ
 ▶プレスリリースの発信
  博物館法改正に伴うビジネス拡大の情報、デジタル・アーカイブの企画・開発、地域連携の取り組みなどを含めプレスリリースを発信
 ▶イベント開催
  地域の文化や歴史を反映した展示やイベントを企画・実施し、地元の産業や観光資源との連携を図る
 ▶SNSやウェブサイトの活用
  展示やイベントの情報発信や地域連携の取り組みなどをSNSやウェブサイトで発信する
 ▶広告の掲載
  地域情報誌や観光案内誌などに広告を掲載

企画書作成上の注意①

「ターゲット」について

地域に根ざした博物館や美術館のPR企画書においては、「PRの目的・目標」を明確にする上で、地域文化への理解と尊重を強調する必要がある。また、地域連携、ターゲット層の明確化、PR活動の実施方法、効果測定・改善策などについても詳細を記載することが望ましい。

ただし「ターゲット層の明確化」については難しいと私は考えている。なぜならば、特定のターゲット層に絞りすぎることは博物館・美術館の公共性の面からあまり望ましくはないからだ。公共性を重視すればするほど、「全ての人々(住民の方たち)」へとターゲットが広がりがちになる。

しかし、ターゲット層を明確にすることで、適切な情報発信手段を選択することができる。例えば、利用層を拡大する上で、若い世代にアピールする必要がある場合にはSNSやインフルエンサーを、高齢者層にアピールする場合には新聞やチラシなどを活用することが賢明だ。企画書にはターゲット設定にあたり合理的な説明が必要となる(例 ここ数年間で若者の来館が減っている➡だから若者の来館施策を行う)。

ターゲットをある程度特定した上であれば、具体的なPR活動の実施方法として、SNSやウェブサイトを活用した情報発信、地域イベントへの参加、地元メディアやインフルエンサーとの連携、ボランティア活動やワークショップの開催などの、きめ細かな施策の企画提案が可能となる。

地域文化や観光資源と博物館を結びつけるPR

博物館法の改正により、地域文化や観光資源と博物館を結びつける取り組みが増加すれば、地域連携がますます重要視されていく。博物館・美術館は地域と密に連携し、地元企業や団体とパートナーシップを築き、環境保護や社会貢献活動を含む地域社会の持続可能な発展に取り組むことがさらに重要となる。

このため、SNSやウェブサイトを活用したPR戦略を策定し、地域イベントに参加して存在感を高め、環境保護や社会貢献活動に取り組む様子を日常的にPRしていきたい。これにより、集客力向上、地域貢献、持続可能な発展を実現し、多くの人々に愛される場所としての地位の確立が可能になる。

図5 地域連携を促進するPRの例

● 戦略立案フェーズ
 ▶目的の明確化
  地域の観光資源や文化と連携し、博物館・美術館と地域の魅力を相互に引き出す。観光客にとっての魅力の最大化を図る
 ▶ターゲットの設定
  観光客、地域住民
 ▶コンセプトの設定
  地域の特産品や歴史的建造物と連携したイベントを開催。博物館・美術館が地域の活性化に貢献するイメージを強化し、地域全体の魅力向上につなげる
 ▶メッセージ設計...

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