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広報担当者のための企画書のつくり方入門

「産学連携」事業のPR企画書の書き方

片岡英彦(東京片岡英彦事務所 代表/企画家・コラムニスト・戦略PR事業)

「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。

企業と大学の連携で生まれる価値を伝える

産学連携事業は、企業と大学が協力し、社会への貢献と新しい市場の創造を目指す革新的なプロジェクトだ。その価値を広く伝え、社会全体の認知度を向上させれば、事業における資金調達の機会を増やすことにもなるだろう。連携の意義や目的を理解してもらい支持を得るには、PR活動が不可欠だ。PR企画書には、明確な目標設定、戦略的なアプローチ、そしてその効果を評価する手段が必要となる。今回は、産学連携事業の価値やその可能性を最大限に伝えるPR企画書作成の道筋を示したい。

視点1
産学連携PRの難しさはどこにあるか

いま産学連携が必要な理由

新たな課題に対峙する現代社会では、産学連携がその解決策を見出すキーとなっている。新型コロナウイルスのパンデミック、DX、持続可能な社会構築に向けたSDGsの推進など、多様で複雑な問題に対応するには、産業界の実務経験と、学界の理論や研究成果の融合が必要だと考えられているのだ。大学の研究成果がビジネスに活用されれば、新たな機会や競争優位性を創出するきっかけにもなる。

産学連携PRの難しさ

産学連携事業の真価を伝え、その成功につなげるためにはPR活動が必要だが、そこには多くの関係者がかかわり、一筋縄ではいかない事柄も多い。私自身、企業側のアドバイザーとしてPR戦略の立案に参画する場合、または大学側の当事者として産学連携に携わっている経験から、その困難さを日々痛感している。

困難さの一因は、多様な研究分野と産業界を結びつけ、専門的な内容や複雑な利害関係を伝えなくてはならない点にある。専門知識を必要とする内容を一般の人々に分かりやすく伝えるコミュニケーション能力が求められる。また具体的な成果が表れるまでに時間がかかるため、事業が社会全体に影響を及ぼす可能性を長期にわたって適切に伝えていくことも必要だ。

図1 産学連携のPRが難しいとされる理由

● 多面性と専門性
多種多様な研究分野と産業界が交錯するため、専門的な内容を一般向けに伝えるには、特定分野の専門知識や分かりやすく伝える能力が求められる

● 長期間の成果発表
具体的な成果が表れるまでに時間がかかることが多く、関心を維持し理解を深めてもらう必要がある

● 企業と大学の文化的な違い
企業と大学は価値観や目指す目標、コミュニケーションスタイルが異なるため、それらを調整しながら共通のメッセージをつくり出す困難さがある

そして産学連携のコミュニケーション上の最大の課題は、企業と大学がそれぞれ異なる目的と文化を持っている点だ。違いを調整し、共通のメッセージをつくり出すには一定の技術と経験が必要である。これらの課題を克服し、産学連携の真の価値を広く伝えるためには、戦略的なPRが不可欠である。PR企画書で、連携事業の目的、取り組み、期待される成果についてしっかりと整理し、関係者ならびに一般の人々に向け伝えていきたい。

視点2
明確なビジョンを提示する

事業自体の目的を言葉にする

産学連携のPR企画書作成における初めの一歩は「事業自体の目的(社会的な価値や方向性)」を明確に言葉にすることだ。一般の人に分かりやすく連携事業の価値を伝えるのに欠かせない。また私の経験上の話になってしまうが、この「言葉にする(言葉化)」の部分が、産学連携事業の広報においては特に重要であり、かつ難しい点だと感じている。事業の目的を明確に言葉にしたPR企画書は、読み手となる関係者に対してビジョンを共有しモチベーションを高め、行動を導くツールとしての役割を担えるようにもなる。

事業の目的を言葉にしていくには、特に以下の4つのポイントに注意を払うことが重要だ。

❶ 複雑性の簡素化:専門的な知識がない一般の人々でも理解可能な目的に落とし込む。
❷ 統一感の確保:多様なバックグラウンドを持つ関係者全員が共感し一致団結できるような表現にする。
❸ 長期ビジョンの提示:短期的な成果だけでなく、長期的なビジョンも示す。ただし、その表現は具体的すぎると現実的でないと感じられる可能性もあるため、バランスを取る必要がある。
❹ 社会的影響の強調:新技術や知識創出だけでなく、社会経済の発展や地域活性化など社会全体に対する影響を強調する。PR担当者はその社会的影響を具体的かつ魅力的に表現する。

これらを考慮に入れ、PR企画書において最上位にある「事業の目的」を言葉にし、多くの関係者と共有しておくと、PR活動の方向性も設定しやすくなる。

事業目標の整理

長期にわたる産学連携事業では、目的達成に向けてどのような目標を掲げているのか。これもPRしていきたい要素だ。PR企画書で整理するにあたっては、事業目標が可能な限り数値化され、達成が可能な範囲で設定されているか確認し、次の点に十分に注意をしたい。

❶ バランスの取り方:目標が高すぎると達成が難しく、低すぎると事業価値が低下する恐れがある。設定においては事業の現状や可能性、参画企業・大学機関の能力についての理解が必要になる。
❷ 多様性の認識:産学連携には多様な組織が関与し、各々の視点や目標が異なるため、全体の目標設定の難易度は高くなる。一方、多様性は産学連携の強みでもある。PR担当者は各組織における視点を理解し共通目標を設定する。
❸ 実行可能性の確認:理想的(理論的)な目標設定だけでなく、その“数字”が本当に現実的であるか実行可能性を検証する。
❹ 成果指標の選択:多種多様な指標の中からPR担当者は、どの指標が最適で、それがどのように産学連携事業のPRの成功に寄与するのか理解することが求められる。

図2 「目的」と「目標」の設定のポイント

目的:大きなビジョンを示す。社会的な価値や事業の方向性を設定する

目標:具体的な達成事項を設定する。可能な限り数値化し、達成可能な範囲にする

「目的」「目標」など明確なビジョン設定は、関係者のモチベーションを高めることにもつながる

PR活動の成果指標

事業における目的・目標が定まれば、PR活動においては、事業に貢献するために、どんな認知変容を目指すのか、といった「PR活動の目的」や具体的な行動計画を示す「PR活動の目標」も設定しやすくなる。明確にPRの目的と目標が設定されている場合は、リソースの適切な配分、活動の優先順位の決定、進捗の測定と評価が容易になる。結果として、関係者の一体感を生み出す効果もある。

図3 産学連携事業の認知度向上を目指すPR活動の成果指標(例)

● メディア露出
どの程度多くのメディアがニュースとして取り上げたかを測定。メディアの種類(新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、オンラインメディアなど)や露出の質(肯定的、否定的、中立的など)も含めて測る

● リーチ
PRメッセージが届いた人数を示す。特定のメディアの読者数や視聴者数を基に数値を積み上げる

● エンゲージメント
PR活動の結果、届けることができたコンテンツにオーディエンスがどの程度関わっているかを示す(例 ソーシャルメディアでの「いいね」、「シェア」、「コメント」の数、ウェブサイトの閲覧時間やページビュー数)

● ウェブトラフィック
PR活動がウェブサイトへのトラフィックをどれだけ増加させたか測定する。これには、直接的な訪問数だけでなく、リファラーサイト(他のウェブサイトからリンクを通じて訪れる)からのトラフィックも含まれる(例 PR活動の一部として配信したプレスリリースやブログ記事、ソーシャルメディアの投稿からなど)

● ビジネス成果
PR活動が直接的なビジネス成果(例えば、新規リードの獲得、売上の増加など)につながったかを測定する

図3にあるウェブトラフィックについては、その分析を通じて、どのPR活動が最も効果的だったか、どのメディアから最も多くの訪問者が流入したかといった情報を得ることができる。これはPR戦略の調整や改善に資する重要な情報であり、目標達成の具体的な指標を設定することで、効果的な産学連携のPR企画書作成が可能となる。

視点3
各組織の強みをプロフィールで示す

連携する企業・大学機関のプロフィール

PR企画書において「連携する企業・大学機関のプロフィール」は極めて重要だ。理由は、プロフィールが、各組織の特性、強み、リソースを、企画書の読み手となる関係者に対して明示する手段となるからである。

作成した詳細なプロフィールを、PR活動において公開すれば、事業に対する信頼を獲得することにもつながる。プロフィールは、企業や大学のイメージを形成する上で重要な役割を果たす。また、それぞれのプロフィールを通じて、連携する組織として一貫したメッセージをつくり出すことができれば、全体としての強固な印象も形成できる。一般の人にも分かりやすいよう専門用語や業界用語の使用は避けたい。

ただし関係する組織や機関が多い産学連携事業の広報活動においては、この「プロフィール」を作成・用意することだけでも...

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