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危機を乗り越える広報対応

ビッグモーターから学ぶ 不祥事が起きうる企業の予兆とは

白井邦芳(社会構想大学院大学)

組織ぐるみの不適切行為や不正の隠蔽は、長い年月をかけて蔓延してきた“企業風土” や“ガバナンスの欠如” などがその根底にあるケースも多い。ビッグモーターによる保険金不正請求の事例から見えてくる、広報ができること、知っておくべきことは何か。

文/ 白井邦芳 社会構想大学院大学 教授/ゼウス・コンサルティング代表取締役社長

ビッグモーター保険金不正請求問題

昨今、企業のガバナンスに問題があり、長期間にわたり違法行為や不適切行為が繰り返し行われてきたことが発覚して、経営陣の多くが謝罪及び辞任する事態に陥っている。それらの背景には、企業風土化、問題行為の組織的関与、特に経営陣の関与など、発生した現場のみならず企業全体に蔓延る悪しき体質が経営の本質的な部分で醸成されているところにある。

ガバナンスの要と言われる3 Lines of Defense(「現場」「業務管理部門」「監査部門」の3線防止)の防御ラインは、全てが突破されると「内部統制の限界」と評価され、企業統治は崩壊する。現場の一人ひとり(1線)、業務管理部門(2線)、監査部門(3線)のコミュニケーションを通じて全ての管理体制が適切に機能し、公表されて初めて不正は修正され、いわゆる自浄能力が発揮されるということを近時の事例を紹介しながら解説する。

事象分析

ビッグモーター保険金不正請求

ビッグモーターは、事故車の修理に伴う保険金を水増しして請求していた。7月25日に開いた会見で創業者の兼重宏行氏は、過大請求の事実を報告書で初めて知ったと説明。経営陣の関与も「全くない。部門単独で、他の経営陣は知らなかった」と否定した。

    メディアはどう見た?

    ●ビッグモーター兼重社長の記者会見に「責任逃れ」…謝罪一転、 独自の「経営哲学」を展開
    (読売新聞オンライン、2023年7月26日)

    ●「謝罪会見のNG例」となったビッグモーター 何が炎上を加速させたのか?
     (ITmedia ビジネスオンライン、2023年7月28日)

    アンケートの声

    ●表面的な謝罪の言葉と態度。反省している姿勢が全く感じられなかった(64歳女性)

    ●組織ぐるみで隠蔽していたこと。各支店の近所の樹木を許可なく撤去したこと。目先の利益しか考えていないと思った(35歳男性)

ビッグモーターにおいて次々につまびらかになる不正の実態には驚かされる。少なく見ても以下のような課題が挙げられる。

●公表のタイミングは遅く、行政指導の直前であり、できれば公表を避けたいとの意図が見受けられる(公表に後ろ向き)。
●社長の息子である副社長が実質的執行者として実務を指揮していたが、会見の登壇者として参加しなかった(実態の解明に非協力的)。
● 兼重宏行元社長の「天地神明に誓って知らなかった」発言。「知らない」は経営者として不作為と同じ。リスクの早期発見のしくみや内部統制の整備を怠っていた証左(内部統制の崩壊)。
●当初、「一部の場所で限定的に起きていた」から「ほとんどの拠点で同様の事が行われていた」に変わる。発覚のたびに膿を出し切らず、小出しに公表する(危機の過小評価)。
●損害保険会社への不正請求に加え、除草剤問題、パワーハラスメント問題など、組織全体に次々と問題が噴出(経営者への忖度で不祥事が長期間隠蔽される企業風土)。

これらの課題から、広報担当者にとっての学びとなりそうな点を整理した。

まずは、会見に至る前の対応だ。早期からメディアより問い合せを受け、適切に広報が真実を発信、丁寧に説明するとともにホームページ上でリリースを適時に公表するなどしていれば、会見に至るまでに相当なストレスを抱えずにソフトランディングできた事案だったのではないだろうか。

さらに、事態の緊急性や重大性から考慮しても、記者会見を早期に開催するよう広報担当者が経営層に進言すべき事案だったろう。行政処分を直前に控えて急遽開催したことは明白で、もともと会見を行わないことを前提に、準備不足と社長・副社長の辞任で幕引きを図り、沈静化を期待していた心づもりが見え隠れしてしまった点も逆風となった。

会見の最中の様子も、「聞かれないことは語らない」「聞かれても小出しにする」といった事態の極小化による印象操作が最後まで…

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