不祥事が発生する組織の特徴のひとつが、「社内で自由に発言ができない」「社内で協力ができない」といった「心理的安全性」がない状態であることだ。「心理的安全性」のある組織を生み出すために、広報担当者には何ができるのか。
「工場から出火したという情報を社長のわたしがキャッチしたのは、社内からの報告ではなく、マスメディアの方の電話からだった」
これは東証プライムに上場する、さるグローバル企業の経営陣と会食していた際の一言です。組織に心理的安全性の不在を示す、典型的な例でしょう。筆者は不祥事の起きにくい組織、成果を出しやすい組織の特徴である「心理的安全性」を主要テーマに、組織風土を変革するコンサルティングや、役員研修・管理職研修に携わっています。昨今は、上場企業を中心に不祥事からの信頼回復というテーマでの相談も増えてきています。
不祥事を起こす企業の経営陣が常に「邪悪」であるわけではありません。実際、多くの場合、不祥事が起きた企業であっても、経営陣は法令遵守を心がけ、顧客にとっての価値創造を目指しています。しかし、そのような「善良な」経営陣であっても、組織が「心理的“非”安全」な状態にあると、問題や不祥事を招いてしまうのです。
経営陣だけではありません。実際、不祥事が起きた企業で、担当者にヒアリングをすると「一人ひとりは悪い人ではないんです。けれど『組織』となると…」という発言が聴かれます。たとえ個々人に悪意が無かったとしても、小さなすれ違いが組織・チームの機能不全を生んでしまうのです。
言い換えれば「心理的安全性」とは、人為的につくりあげるべき組織の状態であり、単に「いい人」が集まれば自然と生まれるものではありません。経営陣が、リーダーが、メンバーが、そして広報に携わる人が、共につくりあげていくものが心理的安全性なのです。
4因子「話助挑新」
心理的安全性とは「地位や経験にかかわらず、誰もが率直な意見・素朴な疑問を言い合える、生産的でよい仕事をすることに力を注げるチーム・職場」を言います。もう少し噛み砕くと下記のようになります。
●話しやすさ(何を言っても大丈夫)
●助け合い(困った時はお互い様)
●挑戦(とりあえずやってみよう)
●新奇歓迎(異能、どんと来い)
このような「話助挑新」に紐づく行動が、組織・チームの中で多数起きるのが、心理的安全性の高い職場です。
心理的“非”安全な組織文化
心理的安全性が欠如した組織では、不祥事が燃え広がる原因となる「左右の溝」と「上下の溝」という深刻な問題がしばしば生じます(次ページ図の左側)。
心理的安全性が不足しているチームでは、同じ組織内にいながら、メンバー間に...