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危機を乗り越える広報対応

ジャニーズ問題で振り返る「不誠実」のレッテルが貼られる対応とは

浅見隆行(弁護士)

2023年報道が過熱した旧ジャニーズ事務所の性加害問題。動画での声明発表、そして2度の記者会見を開いた一連の対応について、危機管理広報の視点から見ると、どのようなところに教訓とすべき点があるのか。

文/浅見隆行 弁護士

ジャニーズ性加害問題

    メディアはどう見た?

    ●「崩れるジャニーズ帝国過信のツケ『全てが内向きだった』」
    (日経新聞、2023年10月9日)

    アンケートの声

    ●対応が後手後手で、状況が二転三転し、メディアの報道で揺さぶられている感が伝わってきた(29歳女性)

    ●社名を変えただけで企業の体質そのものが何も変わっていない(38歳男性)

故・ジャニー喜多川氏による性加害問題に関して、旧ジャニーズ事務所(現スマイルアップ)が行った一連の対応は、2023年の危機管理広報案件の中でも特に注目を浴びました。企業の広報担当者は、ジャニーズ事務所の対応から、危機管理広報について多くのことを学ぶことができます。

遅すぎた初動対応

故・ジャニー喜多川氏による性加害問題が注目を浴びたきっかけは、2023年3月7日付けでイギリスBBC TWOが報じた「Predator: The Secret Scandal of J-Pop」(邦題「J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル」)と題するドキュメンタリー動画でした。

BBCの論調は、故・ジャニー喜多川氏による性加害の事実を1999年に『週刊文春』が報じ、2003年7月には東京高裁の判決でも認められたのに、世間に響かなかったのは、「喜多川帝国」と日本メディアの共依存関係が大きく関わっているからかもしれない、とジャニーズ事務所と日本のメディアの関係に疑問を呈するものでした。

それ故に、ジャニーズ事務所は、BBCの報道後に日本のメディアとの関係が追求されることはあっても、故・ジャニー喜多川氏による性加害問題が深掘りされるとは思っていなかったのかもしれません。

ところが、BBCの報道後、故・ジャニー喜多川氏による性加害の被害者の声などが報じられたこともあり、国内ではジャニーズ事務所と日本のメディアとの関係よりも、故・ジャニー喜多川氏による性加害問題がクローズアップされ報じられることになりました。端緒となったBBCの報道と、国内のメディアの報道の論調にズレがあったことが、ジャニーズ事務所の読み間違いを生み、初動対応が遅れることになった要因のように思います。

そうはいっても、ジャニーズ事務所による初動は遅すぎました。

BBCの報道後、国内メディアが連日報道しているにもかかわらず、藤島ジュリー景子社長(当時)が声明を発表したのは5月14日と、BBCの報道から2カ月以上が経過していました。

国内メディアの報道と世の中の人々の関心が、故・ジャニー喜多川氏による性加害問題にあることが明らかになった時点で、すなわち、遅くとも3月中に、藤島社長が声明を出すべきでした。

報道が繰り返され、世の中の人々の関心が高まっているのに何も声明を出さないことは、メディアにも世の中の人たちにも「逃げている」と受け取られてしまいます。逃げれば逃げるほど「不誠実」とのレッテルを貼られ、ジャニーズ事務所という組織も、藤島社長という個人も、信頼・信用の回復からはほど遠くなってしまいます。果たして、まったく信頼されない状況に至りました。

世の中の問いに応じたか

藤島社長による声明の発表の出し方やその内容にも問題がありました。

BBCの報道から2カ月以上が経過して、その間に報道が繰り返され、世の中の人々の関心も高まっているのに、記者会見をするでもなく、藤島社長が一方的に謝罪する動画をネットにアップするだけでした。内容も、藤島社長からはお詫びの言葉があるだけで、見解と対応は文書を自社サイトに掲載するのみで、外部からの質問には書面で回答するに留まりました。

BBCの報道から2カ月の間にジャニーズ事務所が問われていたのは、故・ジャニー喜多川氏による性加害問題への認識、創業者による性加害問題を防ぐことができなかったガバナンスの構築義務違反や役員間の監視義務違反の問題、過去に性加害問題が報道された際あるいは裁判所による判決が出た後に何らかの対処をしなかったことについての役員やジャニーズ事務所の責任、性加害問題の被害者に対する賠償や補償の考えなどでした。

こうした問いに藤島社長が正面から答えることなく、お詫びの言葉を述べるだけでは、「不誠実」とのレッテルを剥がすには至らず、組織も個人も信頼・信用を回復することはできません。むしろ、記者による質問に晒されて糾弾されなければ、藤島社長は、故・ジャニー喜多川氏による性加害問題を重大事と認識するに至らないのではないかとさえ感じさせる内容でした。記者会見の要請を高めることはあっても、メディアや世の中の人々を満足させることのない、何の解決にもならない動画だったと言ってもよいでしょう。

不正や不祥事など企業価値を毀損する事象が発生した直後に危機管理広報をしたけれども、その方法や内容が世の中の人たちが求めているものに応えていない。これは、ジャニーズ事務所だけに限ったものではありません。

反対に、世の中の人たちが求めているものにドンピシャに当て…

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