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危機を乗り越える広報対応

「ネットの話題」は要注意!ネガティブに注目された時の体制はあるか?

鶴野充茂氏(社会構想大学院大学)

かつて社内でSNS活用を議論する時に「投稿が炎上したらどうする?」と言われたことを記憶している人もいるだろう。世の中はすでに「何も投稿していないのに炎上した時どうする?」という問題を考える時代になっている。危機管理広報の観点から2023年のネット上の動きを振り返る。

2023年は、ChatGPTに代表される生成AIが、年間の流行語に選ばれるほど日常の話題になった。これにより文章、画像、動画に至るまで誰でも簡単にそして瞬く間に新しいコンテンツをつくり出せるようになった。米紙NYタイムズは、ネット契約者数を伸ばしたことから、9月段階で有料読者が初めて1000万人を超えたという。ジャニーズ事務所は、ネット上をはじめとする世の中の声の高まりによって、複数回の記者会見を開くに至り、社長は辞任し社名を変えて事業を大幅に見直さざるを得なくなった(一覧①)。もはやネット上の動向や論調を無視した企業・団体活動はできなくなっている。

企業を経営破綻に追い込む力

2023年3月、米銀行シリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻した(一覧②)。きっかけになったのは、ネット上での取り付け騒ぎである。

同社は有価証券の売却などで損失を計上したことを発表。同時に、増資を発表して市場に健全性をアピールした、はずだった。しかし翌日には株価が6割安に達している。背景に大口預金者が引き出したといった情報がTwitterなどのSNSに流れ、またSVBのオンラインバンキングの不具合を示す画面が拡散したこともあり、1日で預金全体の24%に相当する額が一気に引き出されたのだ。SNSで増幅した取り付け騒ぎである。これを受けて格付け会社は13段階の格下げを発表し、増資に応じる投資家は消えて経営破綻した。

5月、「米国防総省付近で大きな爆発があった」との偽情報がSNS上に拡散した(一覧③)。AIで生成されたと見られる爆発の画像付きだった。実際には爆発はなかったが金融市場が乱高下するなど混乱が広がった。地元消防局が「国防総省やその付近では爆発やその他の事案は起きておらず、一般市民への危険もない」との声明を発表して騒ぎは収束した。偽情報は、米ブルームバーグ通信の報道を装って拡散されたのが発端だった。

ネット上の噂は、実社会で人を動かし混乱をももたらしている。SNSの声は時に大きな力を持つことを認識しておかねばならない。何より最初に取り組むのは、モニタリングや異常察知の体制作りである。

企業をふり回す迷惑動画対策

SNSに関する炎上リスクは、いまや自社が発信した情報にとどまらず、顧客をはじめとする第三者による投稿にも潜んでいる。

イラスト/たむらかずみ

注目を集めること、話題をつくること。それは本来、広報にとっては好ましいことが多い。「どんなパブリシティ(メディア露出)であれ、良いパブリシティだ」という言葉もある。だが、2023年の年明けから立て続けに起きた飲食チェーンに関わる動画拡散は、そんな従来のイメージに当てはまることの方が、むしろ少なかった。

1.飲食チェーンが対応を迫られた

はま寿司、くら寿司、スシローなど回転寿司チェーンで撮影したと見られる客による迷惑動画が相次いで拡散、炎上した(一覧④)。レーンから取った寿司を再びレーンに戻す、しょうゆボトルや湯呑をなめて元の場所に戻す、他人の寿司にわさびを乗せるイタズラをするなどの動画だった。

カラオケ店では、マイクの除菌用スプレーを使ってライターで引火させて遊ぶ様子や、店内のソフトクリームの機械から直接口に入れる様子を撮影した動画が拡散し炎上した(一覧⑤)。吉野家やいきなり!ステーキ、ラーメン店では卓上の生姜やソース、にんにくを客が直接口に入れる行為を撮った動画が広まった(一覧⑥)。

こうした動画が拡散されると、社内では事実確認を急ぐことになる。どこの店舗か、いつのことか。店は認識しているのか。どんな対策を講じたのか。警察に届けるのか、届けたのか。犯人は特定できているのか否か。今後の方針は?その間も問い合わせがひっきりなしに入る。想像するだけでも気が滅入りそうだが、初動までの時間が収束の鍵を握るので類似の事案が発生した場合に、誰が何をするのかはしっかり社内で検討・共有をしておきたい。

迷惑動画に見舞われた企業はどう対応したのか。カメラを設置する、卓上から撤去する、注文されてから出すようにするなど、原因となるものを取り除き、監視の目を入れるようにすることが共通して見られたアクションだが、それが完全に再発防止につながるかは見通せない。スシローは、しょうゆ差しをなめた少年を提訴し6700万円損賠請求した(ただし後に、取り下げた)(一覧⑦)。スシローはまた、社長名でのコメントをTwitter公式アカウントから発している。これは、「#スシローを救いたい」などの#タグ付きで応援の投稿が、迷惑動画が出回った後に多く寄せられたことを受けて、社長からの感謝のメッセージであった。迷惑動画によって、一般の利用客あるいはファンがどのような反応を見せるかも差があり、企業が騒動を見ている他の利用客に向けていかにコミュニケーションを取るかも検討項目になるだろう。

2.動画は証拠としても使われた

ネット上で拡散した動画は、何も迷惑動画ばかりではなかった。

2023年2月、千葉県立千葉高校の校内で撮影されたとされる動画が...

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