日本大学のアメリカンフットボール部や東京農業大学のボクシング部など、学生による薬物問題が相次いだ。両大学の広報対応の相違点などをもとに、有事の際の適切な情報発信について考える。
日大、アメフト部薬物事件
メディアはどう見た?
●疑問ばかりの135分 日大アメフト巡る会見、不可解な説明続く
(毎日新聞、2023年8月8日)
●日大アメフト薬物事件 “副学長の対応が信用を失墜” 第三者委
(NHK NEWS WEB 2023年10月31日)
アンケートの声
●不祥事が多い印象 改善されてないと感じる(32歳女性)
●真実を話そうとせず隠している感じがした(47歳男性)
今年8月に日本大学アメリカンフットボール部(以下、日大アメフト部)で発覚した違法薬物事件について、第三者委員会の調査報告書が10月31日に公表された。報告書は日大のガバナンスが機能不全であったことが事件対応で不適切な行為が重ねられた原因になったと指摘し、日大の危機管理広報についても「場当たり的で、責任回避・自己正当化に終始した近視眼的な対応が、世の中の反発を招き、本法人の信用を大きく毀損することになった」としている。
危機管理広報の視点で本件をとらえた場合、日大の対応の問題点は大きく2つあると考える。ひとつ目はアメフト部員が違法薬物を使用したり、所持したりしている可能性を把握していながら、メディアからの複数回の問い合わせに「そのような事実はない」と事実と異なるコメントを出してしまったこと。2つ目は、8月8日に開いた記者会見での不適切な対応である。
本稿では公表された報告書をもとに、改めて事件に対する日大の広報対応の課題を確認した上で、同時期に発覚した東京農業大学ボクシング部の広報対応との類似・相違点についても考えてみたい。
メディアの疑念を招くコメント
報告書によると、日大はこの問題が最初に報道された2023年8月1日以前にもメディアから問い合わせを2回受けている。1回目は2022年12月21日の毎日新聞、2回目は2023年7月18日の朝日新聞と読売新聞だ。これらの問い合わせを受けた時点で日大は、アメフト部に対する調査により部員が大麻を吸った可能性や大麻の可能性がある植物片を発見していたことを把握している。しかし、「(部員が)大麻を吸った事実はありません」(2022年12月22日)や「調査をしている事実はありますが、大麻が見つかった事実はありません」(2023年7月18日)などと、事実を歪曲するようなコメントを出している。
また、8月1日に最初の報道が出た翌8月2日にも、「現時点では、一部マスコミで報道されているように、本学アメリカンフットボール部の寮内において、違法な薬物が発見されたとの事実は確認できておりません」とのコメントを発表。同日夕方には、林理事長が日大に集まった報道陣の取材に応じ、「一部のマスコミで報道されていますように違法な薬物が見つかったとか、そういうことは一切ございません」と、疑惑を否定するような発言をした。
しかし、日大の説明はすぐに覆されることになる。翌8月3日、警視庁がアメフト部の寮に家宅捜索に入り、テレビや新聞で大きく報じられた。日大が警視庁からの情報提供を受け、アメフト部の寮内で大麻のような植物片と錠剤を7月6日に発見していたにもかかわらず、警視庁への報告が約2週間後の7月18日であったこと、また、警視庁の鑑定の結果、見つかった植物片が大麻と確認され、錠剤からは覚醒剤の成分が検出されたことなどが明らかとなったのだ。一連の対応は「違法な薬物が見つかった事実はない」とした前日の日大理事長の説明が虚偽であり、組織的に問題を隠蔽しようとしたのではないかという大きな疑念を招く結果となった。
報告書によると日大の広報部門は、アメフト部を所管する競技スポーツ部や担当副学長が作成したメディアへの回答案に懸念を持ち、その都度、事実関係を確認しようとしたようだが、正確な情報が広報部門に共有されず、鑑定結果が出ていない以上は確認されていないものとして扱えばよいという副学長の意見に押し返され、結果的に事実を歪曲した回答をすることになってしまったようである。
改めて指摘するまでもなく、危機管理広報において事実に反するもしくは事実と異なる説明をすることは最も避けなければならないことであり、その前提として広報部門には発生した事案に関する正確な情報が迅速に共有される必要がある。そのためには、危機管理における広報機能の重要性を組織のトップが十分に理解し、情報の隠蔽や、迅速に対応しないことは許さないという姿勢を示すことが何よりも重要である。
会見で表れたガバナンス不全
8月8日に開いた記者会見では、7月6日に植物片を発見してから警視庁に...