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リスク広報最前線

不安感や理解不足に基づく風評に対するサイトでの情報開示

浅見隆行

複雑化する企業の諸問題に、広報はどう立ち向かうべきか。リスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が最新のケーススタディを取り上げて解説する。

    東京電力HD ALPS処理水の海洋放出
    問題の経緯

    2023年8月24日

    東京電力HDは、福島第一原子力発電所にたまる処理水の海洋放出を8月24日より開始。放射性物質のトリチウムを含むが、国の安全基準以下に薄めており、海水中のトリチウム濃度のモニタリングも行っている。処理水の放出は約30年に及ぶ。

8月22日に政府の関係閣僚等会議の決定を受け、東京電力ホールディングスは8月24日から福島第一原発の多核種除去設備等処理水(ALPS処理水)の海洋への希釈放出を開始しました。国内外で、原発そのものに対するスタンス、政治的意見、法的見解の違いによる批判に加え、不安感や事実誤認や理解不足に基づく風評が発生しています。今回は、こうした難しい事案の広報のあり方を考えます。

浮遊層を新たな理解者として取り込む

会社が不正・不祥事の発生後に危機管理広報をするときには、一般消費者や平均的株主・投資家、世の中の多数の人たちからの信頼を回復することを念頭に広報を行います。しかし、原発に関わる問題は古くからスタンスや政治的意見、法的見解の相違があります。それゆえに、原発事故以前から原発の稼働停止を求める抗議活動や差止訴訟などが繰り返されています。

会社の事業活動に対するスタンスや政治的意見、法的見解が対立している人には、会社側が事実や科学的根拠をどれだけ示しても、対立は解消しません。それゆえに、危機管理広報をする際には、スタンス、政治的意見、法的見解が対立している人を説得して理解してもらう意識は持たない方がよいです。現時点で会社の事業活動を理解してくれている層以外の、スタンス、政治的意見、法的見解が中立的な人たち、いわゆる浮遊層・浮動層を新たな理解者として取り込むことを狙う方が危機管理広報として効果を発揮しやすいです。

安全性に対する不安感の払拭

浮遊層・浮動層に対するアプローチの手法として浮遊層・浮動層マーケティングなどがありますが、危機管理の場面では売上を上げることが目標ではなく、会社を信頼してもらうことが目的なので、マーケティングとはアプローチの仕方が変わります。危機管理広報の場面では、浮遊層・浮動層に対して正確な知識を分かりやすく提供することによって疑問を解消し、かつ不安感を払拭することがポイントです。東京電力HDは処理水ポータルサイトを作成し、国内外に多言語で処理水の安全性を科学的根拠とともに説明しています。経産省も処理水に特化した安全対策・風評対策の取り組みに関するサイトを作成しています。

東京電力HDはポータルサイトに、ALPS処理水やトリチウムとは何かに加え、処理水等の状況、測定・確認用設備の状況、希釈・放水設備の状況、海域モニタリングの結果を随時更新して掲載しています。また、安全性に対する不安感の...

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