パーパスやビジョンなど、企業の考えの提示がより重要視されている昨今、コーポレートサイトに求められる役割にも変化が生まれている。複数の企業でウェブ戦略やコーポレートサイトの制作に携わり、「Webグランプリ」の特別審査委員も務める西田健氏に潮流を聞いた。
Q1.現在のコーポレートサイトの役割とは?
A.製品情報から採用、CSRなどへ…、役割は広がる。
他メディアと連携した“双方向性”も。
デジタル上における企業の「顔」とも言われるコーポレートサイトですが、時代によってユーザーがコーポレートサイトに期待する役割にもトレンドのようなものがあります。
企業に関する情報を発信するという点は変わりませんが、当初は製品情報を発信するだけだったものから、IRの情報、リクルート情報などを注力的に発信するようになり、その後CSR、SDGsに関する活動の発信が積極的になされるようになりました。このように、コーポレートサイトに求められる役割はどんどん広がっており、パーパスやブランド戦略が重視される現在においては、企業ブランドや考えを示し、体現する場となっています。
また、従来はいわば企業の一方的な発信の場であったコーポレートサイトですが、昨今は「双方向のコミュニケーション」も意識しているサイトが増えているのも感じます。コーポレートサイト上で、ステークホルダーとやり取りができるわけではありませんが、SNSやオウンドメディア、ECサイトとの連携を前提としたサイト設計にしている企業が多くなっているのも潮流だと感じます。コーポレートサイトは、企業の情報発信におけるハブのような存在となっているとも言えるでしょう。
キヤノンマーケティングジャパンの事例
現在私が在籍するキヤノンマーケティングジャパンでも、これらの潮流を踏まえつつ、10月にコーポレートサイトをリニューアルしました。リニューアルにあたり発信したかったことは、「企業ブランド」=「キヤノンマーケティングジャパングループらしさ」でした。キヤノングループは、製品の研究・開発・生産を行うキヤノン株式会社と、製品のマーケティングを行う世界各地の販売会社に分かれています。日本では、キヤノンマーケティングジャパングループがマーケティングやITソリューション事業を展開しているのですが、国内の一般の消費者にとっては、キヤノン株式会社とキヤノンマーケティングジャパン株式会社の違いが分かりづらく、コーポレートサイトにおいても、どちらの企業のサイトを見れば良いのか分からないという課題がありました。
そのため、リニューアルしたサイトでは、企業情報のトップページを極力シンプルにして、メインビジュアルのすぐ下に、グループの2025ビジョン「社会・お客さまの課題をICTと人の力で解決するプロフェッショナルな企業グループ」を代表取締役社長の足立(足立正親氏)の言葉で掲載。当社の強みと、発信したいことが伝わるよう、あえてその他の情報をそぎ落として分かりやすくしました。
また、トップビジュアルには、サイトリニューアルと同時に新たに立ち上げたオウンドメディア「ミライアングル」への導線を配置しました。これは、先に述べたような“情報のハブ”としてのコーポレートサイトを意識した設計です。「ミライアングル」は、社員の働く姿などを通して、キヤノンマーケティングジャパングループの姿勢や想いを発信するメディアです。私たちの“今”をコンテンツで発信し、企業の顔であるコーポレートサイトと連携することで、企業ブランド(企業らしさ・企業の価値)を発信しているのです。

発注側企業にウェブ人材は必要か
サイト発注企業が抱える課題のひとつに、社内にウェブ人材が定着しない点が挙げられます。欧米のようなジョブディスクリプションによる雇用とは異なり、日本企業では職務をローテーションすることが多い。社内での異動や転職により、コーポレートサイトや周辺のメディアについて、全体像を知っている人が社内に居なくなってしまったというケースが、この業界には多く見られます。
効率性やサイトの質向上のことだけを考えると、スキルのあるウェブ人材が、多少属人的になってもいいので、サイトに関わる全体を俯瞰で見て、ガバナンスしていくのが理想だと個人的には考えています。しかし、現状国内の企業では、これが成り立つケースは多くない。そのため、誰が担当になっても運用ができるよう、CMSを導入しマニュアルを整備することで業務を標準化することが、いまの日本の多くの企業のコーポレートサイトの運用形態ではないかと思います。
また、担当者のスキルとして、先ほど述べたように、SNSや...