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メディア研究室訪問

課題を解決する手段として情報の“かたち”をデザインするー宮崎公立大学 森部陽一郎ゼミ

宮崎公立大学 人文学部 国際文化学科(メディア・コミュニケーション) 森部陽一郎ゼミ

メディア研究などを行っている大学のゼミを訪問するこのコーナー。今回は宮崎公立大学の森部陽一郎ゼミです。

森部ゼミのメンバー

DATA
設立 2004年
学生数 3年生13人、4年生8人など
OG/OBの主な就職先 JAL(CA職)、ソラシドエア(CA職)、テルモ、センコー、IT企業、公務員、教員など

宮崎公立大学は単科大学で、人文学部国際文化学科のみと小規模ではあるが、質の高いリベラル・アーツ教育を行うことで、課題探求能力を養うとともに、世界で活躍できる「教養あるグローバル人材」の育成を目指している。学部の名称こそ“人文学部”だが、「受け身の学びから主体的学びへ」をモットーに、幅広い領域を学ぶリベラル・アーツ教育を一貫して行っている。また、卒業までに全学生の約半数が短期・長期の留学を経験するなど、国際的な視野を持つ学生が多いのも特徴の1つ。「言語・文化」「メディア・コミュニケーション」「国際政治経済」の3専攻の中から、1つの専門分野を体系的に修得するとともに、他の2分野を横断的に学習できる構成になっている。

どんな人にも情報が伝わるように

森部陽一郎教授のゼミでは「情報デザイン」について、さまざまな視点で研究を行っている。「情報の『かたち』をデザインすることを情報デザインといいます。かたちを整えることで、相手によく伝わり、機器の操作が分かりやすく、使いやすくなります。逆に、情報のかたちが現状に合っていない、ユーザーのことを考えたデザインになっていないと、私たちは操作を誤ったり、情報を間違ったメッセージとして捉えてしまったりすることがあります」と同教授は説明する。

ゼミ生は、3年次にまず、情報デザインの考え方とその活用方法―具体的には、インフォグラフィックス(様々な情報を1つにまとめて図形化したもの)を使ったイラストの作成や、学内の情報のピクトグラム化などについて学び、理解する必要がある。その後は、テーマを定めて役割分担を行った上で、フィールドワーク等の調査活動の中から課題を見つける。さらに、身の回りの情報をどのように伝えれば、より伝わりやすいのかを考えながら、見つけた課題を解決するための作品を、実際に情報デザインを用いて制作する。制作の際は、主にIllustratorなどを使い、あらゆる人に情報が伝わるようユニバーサルデザイン(特に、カラーユニバーサルデザイン)も意識して挑むという。

3年の後期には、上記の活動に加えて、ゼミ生それぞれが卒業研究テーマの選定を行い、4年次には、テーマをもとに研究計画書を作成、これに従って研究を行い卒業論文にまとめていく。卒論のテーマは、「LINEにおける言語情報の比較に関する研究」、「日本語と外国語における絵文字の比較研究」、「PlayStation4コントローラーのユーザビリティの向上可能性について」など。

大学内の情報をピクトグラム化するため、Illustratorを用いてピクトグラムの作成を行っている様子

“情報を絞る”には批判的な視点が必要

印象深いゼミ活動として、森部教授が挙げたのは、2012年度から2014年度まで行われた、宮崎のバス路線図を情報デザインの視点からつくり直すというプロジェクト。既存のバス路線図の問題点を情報デザインの視点から整理し、ユーザーの視点でどのような情報が必要なのかを明確化するため、バスユーザーが実際にバスをどのように利用しているかなどについて、ゼミ生によるフィールドワーク調査が行われた。調査の結果、バスユーザーにとって必要な情報と、既存のバス路線図の情報には乖離が見つかり、それらの点を改善する路線図を設計作成することに成功したという。「本プロジェクトは、宮崎交通との共同研究という形で進められました。学生にとっても大いに刺激になったと思います」(同教授)。

森部ゼミでは、学生の意見をメインに教授がそれをアシストするような形で、学生が主体となって活動をしていることが特徴だ。文献中心の研究ではなく、フィールドワーク調査やPCによる作業が多いことも他のゼミとは異なるポイント。「私たちは多くの情報に取り囲まれています。この世界では、情報を集めるより、絞る技術が必要になっているのです。その際に重要なのは、正しい知識をベースとした批判的な視点を持つこと。学生には、読書や議論をもとに知識を蓄積し、多様な見解を持って自分の頭で物事を考えることのできる人になってほしいと願っています」(森部教授)。

「経営工学」の面白さに気づき、現在はピクトグラムを研究

大学で出会ったゼミ担当教員が経営工学を専門としていたことで、この学問に面白さを感じた森部教授。その中の「品質管理」を勉強してみたいと思ったことが研究者への入口だったという。より専門的に学ぶため、大学院では理系の研究科に。インターネットが広がりを見せつつあった時代でもあり、情報伝達する際の情報の質の向上について研究することになった。

「指導教授は研究面でも、人間的にも目標となるような素晴らしい方でした。教授に少しでも近づけるよう研鑽を積んでいます」。

現在の主なテーマは、非言語情報の伝達における品質向上。ピクトグラム研究を中心に、非言語を補完する「やさしい日本語」にも着目する。「情報弱者を生まない多様な社会を目指すことができればと考えています」。



森部陽一郎(もりべ・よういちろう)教授
近畿大学大学院産業技術研究科経営工学専攻博士後期課程修了。工学博士。現在は、宮崎公立大学人文学部国際文化学科教授、附属図書館長。専門領域は情報デザイン、品質管理。特に、ピクトグラムを中心とした非言語情報の伝達における品質向上について研究を進めている。

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