メディア研究などを行っている大学のゼミを訪問するこのコーナー。今回は横浜市立大学の角田隆一ゼミです。
DATA | |
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設立 | 2014年 |
学生数 | 2年生9人、3年生8人、4年生9人 |
OG/OBの主な就職先 | テレビ局、新聞社、出版社、ニュースサイト会社、映像制作会社、ネットサービス会社など |
横浜市立大学 国際教養学部では、グローバル化が進む世界で課題を発見し、解決するためのコミュニケーション能力と、専門性に裏打ちされた広く多角的な論理的思考力を身に付けることを目指している。
現代社会と自身に向き合う
角田隆一准教授のゼミでは、現代社会の諸現象を広く社会学的に考察する。ゼミ生は「私たちはこのように生きている」といった現代の“生”の実態や、「あのように生きることができたら……」という社会構想について探究している。
具体的な活動としては、まず社会学の基礎知識を短期間で習得した後、角田准教授の講義科目「現代社会論」と「メディア社会論」の概論を学習。そこでの知識をフル動員し、さらに掘り下げるため「写真の社会学」を学び、ゼミ独自の「フォト・プロジェクト」(グループ研究)に取り組む。
写真から現代社会を読み解き、アウトプットとして、写真作品の制作・発表も行うフォト・プロジェクトは、「写真×現代社会論」と「教育×研究」を相互連関させながら、社会学とアート、教育と学術研究をまたいで展開する活動だ。他者に向けた表現活動をすることで、社会へコミットする能力を磨くことも狙っているという。このプロジェクトでは、2~3年のゼミ生を中心とした“フォト・プロ”と教員と卒業生で運営する「ゼミ写真部」が共同して作品を制作したり、学外の団体や地域、写真家やアーティストとコラボレーションするケースもある。
3年次の後期には、卒論へとつながる個人研究テーマを練り上げるが、「テーマの模索は自身の社会学的なアイデンティティの探求」であると捉え、ゼミ生当人の持続的な関心の所在をもとに、学術的な調査研究へとつなげていくプロセスにたくさんの時間をかけている。テーマが固まった後は、各自が磨き上げた「問い」を調査研究へと落とし込み、発表と討論を繰り返していく。
4年次は、個人研究を進めて卒業論文へと昇華させる期間となる。卒論テーマは毎年バラエティに富んでいるが、ポピュラー文化やメディア文化を題材に、現代における「生」「他者」「都市」のありようを探究する傾向が強い。
独自のフォト・プロジェクト
ゼミにおける研究活動で、最も印象深かったこととして「フォト・プロジェクト2022」を挙げた角田准教授。同プロジェクトでは、現代都市をいかに魅力的に生きられるかについて関心を持つ角田ゼミと写真作品から意義深い社会批評を達成している西野壮平さんとのコラボレーションが実現した。「西野さんの巨大な作品を前に、ご本人と長時間にわたって対話したり、ゼミ生による成果発表会で西野さんから厳しくも温かい真摯なご講評をいただいたりと濃密な経験ができました」(角田准教授)。
同プロジェクトでは、他にも、都市公共空間でのコミュニケーションを考察するため、20時間にわたって遠方から俯瞰でエスカレーターを撮影するという試みも。全ゼミ生が交代で、始発から終電まで20時間かけて撮影し、膨大な映像データと向き合う活動は、深い学びの機会となったという。
「ゼミ生には、自分や身のまわりの一、二人称だけでなく、彼ら/彼女らといった三人称の“生”にも思いを馳せる『想像力』を持ってほしいと考えています。また、表現やクリエイティブなものへの関心が高い学生が多いのが、ゼミの特徴でもありますが、卒業後も他者・社会に向けて表現し、発信するモチベーションや能力を持ち続けてくれることを期待しています。授業時間外の自主的な活動も多いハードなゼミ活動を切磋琢磨して乗り越えたゼミ生たちには、仲間として、これからもかけがえのない人間関係を育んでほしいと思います」(角田准教授)。
「社会学」と「写真」を武器に鬱屈した社会を脱出
角田准教授の専門は社会学(文化社会学・現代社会論・映像社会学)。写真作品を積極的に研究対象化し、「写真×現代社会論」の「研究×教育」連関プロジェクトを進めている。
子どもの頃から何かを考え表現する仕事に惹かれていたという角田准教授。学生だった90年代半ば頃にその思いは決定的に。バブル崩壊後の閉塞感の一方で、これを力強く打破できそうな可能性にも溢れていた当時の奇妙に両義的な空気感にワクワクし、これを何とか表現してみたいという気持ちが現在の仕事につながっている。
「その両義的な空気感を表現するために“社会学”と“写真文化”が有望な武器になりそうだと嗅ぎつけ深入りしていきました。今もこの2つを現代に向けてアップデート/アップグレードする作業を行っています」。