メディア研究などを行っている大学のゼミを訪問するこのコーナー。今回は愛知淑徳大学の宮田雅子ゼミです。
DATA | |
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設立 | 2014年 |
学生数 | 3年生15人、4年生16人 |
OG/OBの主な就職先 | 広告代理店、デザイン会社、IT・情報サービス企業、印刷会社、商社・流通企業、小売販売業など |
愛知淑徳大学創造表現学部では、表現力・創造力・コミュニケーション力を高めることで、豊かな表現手法を身につけ、情報発信を通して社会問題を解決できる人材を育成する。中でも、創造表現学科メディアプロデュース専攻では、映像、グラフィックデザイン、CGコンテンツなど、多様化する現代社会で必要とされるメディア表現を専門的に学ぶ。最大の特徴は、制作を学ぶ実習科目だけでなく、定量的調査に基づく社会学や認知心理学など、分析的な理論を学ぶ科目も充実していること。企画力やプロデュース力を磨く講義や演習にも力を入れる。
新たな価値を創造し、生活を豊かに
宮田雅子教授のゼミのテーマは「メディア社会とデザイン」。現代社会のさまざまな問題に、メディア表現やデザインの力で新たな答えを生み出す方法を考えていく。同教授は「これまでにない新たな価値を創造し、日々の生活を豊かで幸せにする手段、それがデザインだと考えています」と話す。その表現の方法は、ポスターやリーフレットなどのグラフィックデザインをはじめ、SNSやオンラインメディア、イベントや、人と人をつなぐワークショップなど。最初から方法を限定せず、広い意味でコミュニケーションのあり方を考えていくという。
ゼミでは、日々のちょっとした疑問や気づきを現代社会の多様な問題の一つと捉え、グループに分かれてデザインリサーチ/コンセプト立案/デザイン提案と、順を追って実践的に取り組んでいく。
ゼミ生は、2年次の春休みに実施する「スタートアップゼミ」で様子をつかみ、3年次で、デザインに必要な知識を習得するとともに、学外の団体や企業との連携プロジェクトを通してデザイン企画・提案の実践的課題に取り組む。
プロジェクトでは、グループワークも含め、相互批評や意見交換を行うことを重視し、成果をまとめた冊子も制作する。3年次の春休み中には卒業プロジェクトのテーマを検討しはじめ、4年次には、各自が興味のあるテーマを定めて卒業制作または卒業論文の執筆に取り組む。自らが制作した作品をもとに調査結果を論文にまとめることもある。
テーマ例は「商店街ポスターの制作をとおした地域活性化の提案」、「景観になじむ案内サインの提案」、「異文化を知ることができる冊子『スープで世界一周』の制作」など。
デザインの提案で社会とつながる
愛知県で品種開発されたブランド梨「あいみずき」を地域の人々に広く知ってもらう「愛知の食とデザイン」プロジェクト(2022年後期)では、工業のイメージが強い愛知県が農業に取り組む重要性を学んだ。「愛知県農業総合試験場を訪問して、収穫期の梨農園を見学したり、食べ比べて品種の違いを確かめる等、机上では学ぶことのできない経験ができたことが強く印象に残っています」(宮田教授)。
また、車内のマナー悪化や交通局への苦情をコミュニケーションの問題と捉え、地下鉄・市バスをもっと快適に使いやすくするデザイン提案を考えた「地下鉄・市バスのコミュニケーションデザイン」プロジェクト(2022年前期)では、関連する事業者の人たちとの対話を通じ、専門的な情報だけでなく互いの人間性を知りながらデザイン提案に展開したという。
地域や社会の課題発見を出発点として新しい価値を生み出し、コミュニケーションの形をつくりあげていく「デザイン」を仕事にしたい学生が多いのが宮田ゼミの特徴だ。「ゼミ活動を通して、まずは自分の手や身体を動かしてデザインすることの重要さを学んでほしいですね。想像通りにならなかったり、逆に意外な発見をしたりと、試行錯誤しながら具体的な形をつくり上げていくデザインの醍醐味を経験してほしいです」と宮田教授。
大学生の提案は時に非現実的なアイデアになることもあるが、失敗を恐れて小さくまとまることなく周囲を困惑させるようなアイデアを出し、そこから対話を深めることで、デザインを通して社会とつながる経験を積んでもらいたいと話した。
異なる領域での経験を糧に
メディアコミュニケーションデザインの道へ
「デザインは自己表現のためだけでなく、他者や社会との関わりの中で考えるもの」。美大でデザイン教育を受ける中で気づきを得た宮田教授は、卒業後、企業の販促企画でメーカーと顧客とのコミュニケーションを経験した。その後進学した大学院ではメディア論を専門とする研究室へ。これが現在の研究の原点になったという。「異なる領域を横断してきたからこそ得られた経験がある」と宮田教授は話す。
2014年から、手づくりの雑誌『5 :Designing Media Ecology』のエディトリアルデザインを担当。雑誌発行を通じて、メディアとコミュニケーションをテーマに研究者や実践者をゆるやかにつなぐことを目指す。「今後も地域社会や歴史・文化の中でデザインを捉え、理論と実践を往復しながら研究を進めていきたいと考えています」。