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データで読み解く企業ブランディングの未来

ステレオタイプを見逃さない 感情リスクチェック

Supported by 企業広報戦略研究所

企業の広報戦略・経営戦略を分析するプロが、データドリブンな企業ブランディングのこれからをひも解きます

今回のポイント
① ジェンダー規範や人々の価値観が急激に多様化
② ステレオタイプな表現はブランド毀損を招く
③ 複数の視点で感情のリスクチェックをする

近年、人々の考え方や価値観が大きく変化する中で、企業や組織もステレオタイプ(固定観念)な表現を見直す必要に迫られています。広告での表現、人物の描き方や配役、製品やサービスのターゲット想定などが、多様性の包括や新しい価値観を反映したものになっているかという視点が企業コミュニケーションには欠かせません。

例えば、女性を男性の補助的な役割として表現したり、「男性用」「女性用」と利用者を限定するような表記をしたりすると、ジェンダーバイアス(性別による偏見)を助長していると捉えられかねません。あるいは、「若者はトレンド意識が高い」とか「中高年は頑固」といった考え方も、「エイジズム」と呼ばれる年齢に基づくステレオタイプで注意が必要です。

時代はアンステレオタイプへ

時代の変化に合わせ、ステレオタイプを見直す企業も増えています。複数の化粧品メーカーが「美白」や「ノーマル」という表現の使用をやめたり、国内大手のポータルサイトが身体的特徴をコンプレックスとして露骨に強調する広告出稿の審査を厳しくしたりするなど、企業それぞれの自主的な対応に注目が集まっています。

また、固定観念に変化を与えるようなメッセージを積極的に発信する企業も少なくありません。医療用漢方製剤大手の「ツムラ」は、女性の約8割が、心身の不調を無理に我慢して家事や仕事を行う「隠れ我慢」をしていることを調査で明らかにし、我慢に代わる選択ができるような社会を目指す「#OneMoreChoiceプロジェクト」を立ち上げました。新聞広告やウェブ動画など様々なメディアを通じて、「我慢は美徳である」という固定観念に一石を投じ、話題を集めました。

ツムラ「#OneMoreChoiceプロジェクト」の新聞広告

相次ぐジェンダー炎上

一方で、従来のステレオタイプや偏見をそのまま描いてしまったことで「炎上」を招く広告やコミュニケーション事例も後を絶ちません。

国際NGO「プラン・インターナショナル」が2019年に行った調査によると、15~24歳の約41%が「今まで目にした広告で不快感や違和感を抱いたことがある」と回答。その理由として最も多かったのが、「ジェンダーの固定観念の助長」でした。対して、「よい意味で印象に残っているものがある」と回答したのは約30%にとどまり、企業が若い世代の価値観を反映しきれてない現状が浮き彫りになっています。

注意したいのは、ジェンダーバイアスやステレオタイプを見直さずに情報発信してしまうと、その意図にかかわらず、差別を肯定していると捉えられかねない点です。

例えば、家事育児で苦労する母親に寄り添うような「共感型」のメッセージを発した場合、それが女性たちを応援したい意図だったとしても、「家庭内でジェンダーギャップが存在する現状を肯定している」と真逆の反応を引き起こしてしまうケースがあります。ソーシャルメディアで情報が次々と拡散される時代、一度炎上に発展してしまうと、企業やブランドのレピュテーションは著しく毀損されてしまいます。

事前に感情リスクのチェックを

では、炎上しないためにはどうしたらいいのでしょうか。

ステレオタイプは「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)」とも呼ばれ、誰もが無自覚なままに持っているもので、自ら気が付きにくいのが特徴です。だからこそ、できるだけ多くの視点から、常にチェックを入れることが大切です。年齢、性別、職業など自分とは違う属性の人と意見交換し、多様化する価値観に触れ続けることも有効でしょう。

当社および当研究所では、表現がステレオタイプになっていないか、誰かを不快にさせたり傷つけたりしないか、事前にチェックするために「感情リスクチェックシート」というものを活用しています。ある広告やPRコンテンツに関して、どんなステークホルダーが目にする可能性があるかを書き出し、さらにその人たちがどんなネガティブな感情を抱くリスクがあるのか、できるだけ多く挙げて整理するためのシートです。

いろいろな立場を想像しながら感情を書き込んでいくことで、自分とは違う第三者の立場に立ってみる視点が養われますし、ネガティブな反応が起きた際にブランドとしてはこういう説明をしよう、という目線合わせにもなります。

例えば、女性活躍を企業として推進するPR活動をローンチさせる場合に、男性社員はどう思うのか、就労していない女性はどう感じるのか、就活生にはどう映るのかなど、事前に考えてみることで、自社のメッセージの意図をあらためて確認することもできますし、PRやプロジェクトの目的もより明確化することができます。

この表現は大丈夫かな、もしかしてステレオタイプになっていないかな、と思った際は、「感情リスクチェックシート」をぜひ活用してみてください。

図【プランニングの際に役立つ感情リスクチェックシート】
女性活躍を企業として推進するPR活動をローンチさせるケース事例

企業広報戦略研究所
主任研究員
電通PRコンサルティング チーフ・コンサルタント
小野真世(おの・まさよ)

大手メディアで記者として勤務。2015年より現職。緊急時対応、コミュニケーション施策に関するコンサルティングを行っているほか、メディアトレーニングや危機管理コミュニケーションにおける模擬会見トレーニングなどに従事。

企業広報戦略研究所は電通パブリックリレーションズ(当時)内に2013年に設立。企業経営や広報の専門家(大学教授・研究者など)と連携して、企業の広報戦略・体制などについて調査・分析・研究などを行う。https://www.dentsuprc.co.jp/csi/

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